・・・「でも、畑のまた下道には、古い穀倉があるし、狐か、狸か。」「そんな事は決してない。考えているうちに、私にはよく分った。雨続きだし、石段が辷るだの、お前さんたち、蛇が可恐いのといって、失礼した。――今夜も心ばかりお鳥居の下まで行った―・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・鳩が幾羽ともなく群をなして勢いこんで穀倉のほうから飛んできた、がフト柱を建てたように舞い昇ッて、さてパッといっせいに野面に散ッた――アア秋だ! 誰だか禿山の向うを通るとみえて、から車の音が虚空に響きわたッた……」 これはロシアの野で・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・砲弾にて破損せる古き穀倉の内部、辛くも全滅を免かれしバナナン軍団、マルトン原の臨時幕営。右手より曹長先頭にて兵士一、二、三、四、五、登場、一列四壁に沿いて行進。曹長「一時半なのにどうしたのだろう。バナナン大将・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ ワンダ・ワシレーフスカヤが長い間、他国の勢力に支配されて苦しみつづけたポーランドに生れ、その地方がゆたかな穀倉であるために、一九一七年の革命のときの侵入軍にも、ナチスにもねらわれ苦しめられたウクライナの民族詩人を良人にしていることは、・・・ 宮本百合子 「ワンダ・ワシレーフスカヤ」
出典:青空文庫