・・・ 絵画ではきっと処理しきれないだろうと思えるどっさりの生活の感情が、そこには流動する立体感であつかわれている。 もう一つ非常に印象をうけたのは、その一冊の終りの方に工場や作業台に向って働いている人々を撮った何枚かの中の一枚で、精密な・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・何十年か前の平面的戦術を継承して兵站線の尾を蜒々と地上にひっぱり、しかもそれに加えて傷病兵の一群をまもり、さらに惨苦の行動を行っているのにくらべて、アメリカの近代科学性は、航空力によって天と地との間に立体的桶をつくり、立体的機動性をもって敏・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ ところが、梅雄について描く場合、作者は対象に面と向って、或は対象の内部へまでくぐり入って描き出しており、本屋での場面のような鋭い情景として内容のこもった立体性を捕えている。私は、この作で作者が自身のスタイルを試しているようなのが面白か・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・自分が人及び女性として、漸々僅かながら立体的の円みをつけ始めると、同性の生活に対して、概念でない心そのもので対せずにはいられなく成って来た。所謂婦人問題の、題目を研究し理解しようとするのでは無い。種々の問題を起す、最も根本的原因である女性の・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ わたくしは、小説をかく者ですから、『仰日』をはじから拝見しながらも、いつかそれを生活的に立体化して感受し、日々の生活の描写にまじえて、自然鑑賞の歌をうけとるという工合になります。生活の歌はほとんどすべて率直であって、その瞬間の真実に立・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・日本の都市と云われた集合地の立体性の皆無さにおどろき 日本の近代文化のおくれた足どりに憐憫とやや嫌悪を抱くだろう。生活上の見聞と感覚の発達した日本人はそう感じるのである。 観光日本が眼をたのしませる何をもつか、ということも大切だろうが其・・・ 宮本百合子 「観光について」
・・・、その土台をなして実に活々と確かに歴史の現実の諸関係をつかみ出している科学者としての方法は、ミケルアンジェロの芸術の本質をはっきりと描き出しているのみならず、当時の複雑きわまる社会と芸術との活きた画が立体的に動的にくりひろげられてゆくその道・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・だから電気で洗濯して電気でアイロンをさっさとかけて電気で料理をして、かたわらでラジオを聴いて勉強していられるというように、同じ一時間でも立体的な一時間になってくる。同じ一時間でも私共は薪を割ったり何かして一時間たってしまうでしょう。この問題・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・ バルザックが或時代の或タイプを描いたという評言を後生大事にかついでおまもりのように云っている人があるが、或タイプといってもそれは社会的活動の関係の中で立体的に描かれなければならないので、型として、内的外的活動を規定の枠内で行為させてい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・前者は立体的清澄を後者は平面的清澄を尊ぶ。新感覚が清少納言に比較して野蛮人のごとく鈍重に感じられると云うことは、清少納言の官能が文明人のごとく象徴的混迷を以って進化することが不可能であったと感じられることと等しくなる。生活の感覚化・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫