・・・世界文化の水平線の上に露わされている旧日本文化の後進性とその深い由来とをきわめつくし、その努力を足場として前進して行く明察と勇気との中にこそ新日本文学の端緒が期待されるのである。〔一九四五年十月〕・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
・・・というレーニンの人間らしい洞察に立って具体的モメントをさがしてゆくと、サークルの端緒的な文学的活動の可能性は豊富で、一方には小説や詩をかく人、そのほかは愛好者たちとわけただけでは、あまり多くの潜精力が眠らされることがわかって来る。 徳永・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・解決の端緒を社会的な契機の中に見出していないことから、彼女はこの自身の矛盾を大局からつかみ得ず、自分の行動をも客観的に批判し得ないのである。「女一人大地を行く」に書かれているまでのアグネス・スメドレーは、不屈な闘志と生来の潔白な人間的欲・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・火と鉄とは人類の発展のための端緒であった。この社会の現実をギリシアの人々は正当に理解した。巨人プロメシウスの勇気は、美しく高く評価された。しかし、当時のギリシア人はこの巨人プロメシウスの人類的な貢献にたいして、天上と地上の支配者ジュピターは・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・何故ならば、オノレ・ド・バルザックは二十で、一文なしの見習文士として屋根裏で震えながら海のようなパリの屋根屋根を眺めていた時から、全くすべてのブルジョアの若者が抱くものと同一の端緒的な欲望「金持ちになって、愛されたい」ために焦慮しつくし、更・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・人間の心の話としての文学の端緒はそこにある。だから文学は師匠が要らない。ところが音楽になると、声を出すこと、譜を読むこと、指を大変早くピアノの上を滑らす技術、そういうものがたくさんの分量を占めていて、どうしても先生がなくてはならないから、金・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・エレン・ケイの思想が歴史の二つばかり前の時代、世界の善良な心々にひろい反響をよびおこしたにもかかわらず、社会的な実行上の推進や解決への端緒は、彼女の思想的雰囲気からあふれた人々の手によってなされたということも面白い。 婦人の文化上の創造・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ 歴史的には古い文化に対する新しい文化の擡頭、その発展のための闘争としてゴーリキイの生涯に反映したインテリゲンツィアと大衆との相互関係についての微妙な歴史、大衆と個人との関係についての評価の推移等の端緒は、既にデレンコフのパン焼場で汗を流・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・足に穿いているのも、お揃の、赤い端緒の草履である。「わたし一番よ」「あら。ずるいわ」 先を争うて泉の傍に寄る。七人である。 年は皆十一二位に見える。きょうだいにしては、余り粒が揃っている。皆美しく、稍々なまめかしい。お友達で・・・ 森鴎外 「杯」
・・・五十年余り前に死んだ Max Stirner が極端な個人主義を立てたのが端緒になっていると、一般に認められているようです。次は四十年余り前に死んだ Proudhon で、Kropotkin が無政府主義の父と云ったのが当っているかどうか・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫