・・・城らしきものは霞の奥に閉じられて眸底には写らぬが、流るる銀の、烟と化しはせぬかと疑わるまで末広に薄れて、空と雲との境に入る程は、翳したる小手の下より遙かに双の眼に聚まってくる。あの空とあの雲の間が海で、浪の噛む切立ち岩の上に巨巌を刻んで地か・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・すなわち攫者が面と小手(撃剣を着けて直球を攫み投者が正投を学びて今まで九球なりし者を四球に改めたるがごときこれなり。次にその遊技法につきて多少説明する所あるべし。○ベースボールに要するもの はおよそ千坪ばかりの平坦なる地面(芝生なら・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・あまり大きな音なので、オツベルの家の百姓どもが、門から少し外へ出て、小手をかざして向うを見た。林のような象だろう。汽車より早くやってくる。さあ、まるっきり、血の気も失せてかけ込んで、「旦那あ、象です。押し寄せやした。旦那あ、象です。」と・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・ギラギラする鋼の小手だけつけた青と白との二人のばけものが、電気決闘というものをやっているのでした。剣がカチャンカチャンと云うたびに、青い火花が、まるで箒のように剣から出て、二人の顔を物凄く照らし、見物のものはみんなはらはらしていました。・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・彼女は日やけした小手をかざして、眩しい耕地の果、麦輸送の「エレバートル」の高塔が白く燦いている方を眺めた。キャンプの車輪の間の日かげへ寝ころがって、休み番の若い農業労働者が二、三人、ギターを鳴らして遊んでいる。 郵便局、農場新聞発行所。・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
出典:青空文庫