・・・の仕事をもどかしがっているかのように、あらゆるものを乾枯させ粉砕せんとあせっている。 火鉢には一塊の炭が燃え尽して、柔らかい白い灰は上の藁灰の圧力にたえかねて音もせずに落ち込んでしまった。この時再び家を動かして過ぎ去る風の行えをガラス越・・・ 寺田寅彦 「凩」
・・・ベルトは粉砕筒へ入って行きました。そこで鋼鉄の弾丸と一緒になって、細く細く、はげしい音に呪の声を叫びながら、砕かれました。そうして焼かれて、立派にセメントとなりました。 骨も、肉も、魂も、粉々になりました。私の恋人の一切はセメントになっ・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・自分の内の庭には椎の樹があって、それへ月が隠れて葉ごしにちらちらする景色はいつも見て居るから、これにしようと思うて、「葉隠れの月の光や粉砕す」とやって見た、二度吟じて見るととんでもない句だから、それを見捨てて、再び前の森ぞい小道に立ち戻った・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・あんなに頑強に見えたシカゴ軍があんまりもろく粉砕されたからです。斯う云ってはなんだか野球のようですが全くそうでした。そこで電鈴がずいぶん永く鳴りました。そのすきとおった音に私の興奮した心はもう一ぺん透明なニュウファウンドランドの九月というよ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・衣、食、住、愛憎の主題に戻って、今日の出版物の多くを眺めると、戦争が社会の安定を破壊し、個々の人の物質と精神のよりどころを粉砕した、その乱脈ぶりと、傷口とが、まざまざ反映している。既成の文学のなかで、愛憎の問題は、人間の発展のモメントとして・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・を階級的立場から理解出来ないようになれば、彼等にとって胡魔化すのに好都合だ。帝国主義日本の勤労大衆を反動文化で息もつかせず押し包んでおいて世界戦争を始めようと、われらプロレタリア文化の燈台「コップ」を粉砕しようと突撃して来るのです。 私・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・もしわれわれが本当に人間として基本的なものだけは守り通すという決意をもち、それが実践のためには牢獄と死をさえ辞せないだけの強い意志だけあれば、必ず我々はこのようなお調子にのった今日の右翼攻勢を粉砕しうる時はくる。」しかし、「戦術的には従来の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ギラギラとわれ目が光っていても、それはどんなにひどく、補填しがたく鏡が粉砕してしまったかを語っているに過ぎない。このことは、落付いた精神をもってこのジイドの一文を読む人々の総てに容易に直感されることであろうと思う。 ジイドのこの文章の翻・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・資本の利害と打算は国際的であって、ファシズムの粉砕、世界の永続的な平和確立のための努力という、世界憲章のたてまえやポツダム宣言の履行と矛盾しながら、なおかつ資本は資本と結びつき得る本質のものであり、その利害には道義をつきのけたつよい共通性が・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
一 深大な犠牲をはらって西欧におけるファシズムを粉砕したソヴェト同盟では、平和が克復するとすぐ、物質と精神の全面に精力的な再建がはじまった模様である。たとえば、ドニェプルの大発電所は、第一次五ヵ年・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫