・・・ まるで日本の伝統的小説である身辺小説のように、簡素、単純で、伝統が作った紋切型の中でただ少数の細かいニュアンスを味っているだけにすぎず、詩的であるかも知れないが、散文的な豊富さはなく、大きなロマンや、近代的な虚構の新しさに発展して行く・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・からだで掴んでしまった現実を素早く計算する神経の細かさ――それが眼にあらわれていると思った。 その部屋には、はじめは武田さんと私の二人切りだったが、暫くすると雑誌や新聞の記者がぞくぞくと詰めかけて来て、八畳の部屋が坐る場所もないくらいに・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・すが間断なく移り変わッた、あるいはそこにありとある物すべて一時に微笑したように、隈なくあかみわたッて、さのみ繁くもない樺のほそぼそとした幹は思いがけずも白絹めく、やさしい光沢を帯び、地上に散り布いた、細かな落ち葉はにわかに日に映じてまばゆき・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・いかに問うかということ、その問い方の大いさ、深さ、強さ、細かさがやがてその解答のそれらを決定する条件である。故に倫理学の書をまだ一ページもひるがえさぬ先きに、倫理的な問いが研究者の胸裡にわだかまっていなければならぬ。そして実はその倫理的な問・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・勝元は宗全とは異って、人あたりの柔らかな、分別も道理はずれをせぬ、感情も細かに、智慧も行届く人であったが、さすがに大乱の片棒をかついだ人だけに、やはり※いところがあったと見えて、愛宕山権現に願掛けした。愛宕山は七高山の一として修験の大修行場・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ 君に聞くが、サンボルでなければものを語れない人間の、愛情の細かさを、君、わかるかね。 どうも、たいへん、不愉快である。多少でも、君にわからせようと努めた、私自身の焦慮に気づいて、私は、こんなに不機嫌になってしまった。私自身の孤独の・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・あの人は、私のからだのことに就いては、いつでも、細かすぎるほど気をつけてくれます。ずいぶん無口で、けれども、しんは、いつでも私を大事にします。私は、ちゃんと、それを知っていますから、こうして縁側の明るみに出されて、恥ずかしいはだかの姿を、西・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・楊樹にさし入った夕日の光が細かな葉を一葉一葉明らかに見せている。不恰好な低い屋根が地震でもあるかのように動揺しながら過ぎていく。ふと気がつくと、車は止まっていた。かれは首を挙げてみた。 楊樹の蔭を成しているところだ。車輛が五台ほど続いて・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・女の人形の運動は男のよりもより多く細かな曲線を描くのはもとより当然であるが、それが人形であるためにそういう運動の特徴がいっそう抽象示揚されるのであろう。泣き伏すところなどでも肩の運動一つでその表情の特徴が立派に表現される。見ているものは熱い・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
緒言 映画はその制作使用の目的によっていろいろに分類される。教育映画、宣伝映画、ニュース映画などの名称があり、またこれらのおのおのの中でもいろいろな細かな分類ができる。しかしこれらの特殊な目的で作られた映画・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫