・・・ 口に云えない程の柔かさと弱い輝を持った気味悪い程丸味のある一体の輪廓は、煙った様に、雨空と、周囲の黒ずんだ線から区切られて居る。 私はじいっと見て居る。 絶え間なくスルスル……スルスル……と落ちて来る雨は此の木の上にも他のどれ・・・ 宮本百合子 「雨が降って居る」
・・・ 野蛮な権力は、文学面で狙いをつけた一定の目標にむかって、ほとんど絶え間のない暴威をふるった。一人の人間の髪の毛をつかんで、ずっぷり水へ漬け、息絶えなんとすると、外気へ引きずり出して空気を吸わせ、いくらか生気をとりもどして動きだすと見る・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・こういう問題も、わたしたちは、人民の基本的人権の擁護とブルジョア的な法律適用による裁判が果して公正なものであるかどうかについての絶え間ない注目とを基礎にして、判断してゆく必要がある。参議院の引揚援護委員会も吉村隊事件ではいかがわしい委員会の・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・何千という錘が絶え間なく廻っている。そこに十四五から、七八くらいの娘さんが一人か二人で働いている。平均一日五里以上を歩く。そこに働いている若い少女労働者は、殆んどみんな国民学校を出ただけの娘さんである。紡績業は明治の初め日本の資本主義発展の・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 広場に向って開いているラジオ拡声機からは、絶え間なく、活溌な合唱、又は交響楽がはじきだされる。 すばらしいメーデーの飾をみようとして、広場に集まる群衆は一時過ぎてもたえなかった。 ソヴェト同盟で、社会主義的社会建設のために全プ・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ 一月○日 今、夜の七時すぎ。絶え間なくギーとあいてバタンと閉る戸のあおり。盛に出している水の音。パタパタ忙しい草履の跫音。言葉はわからないが無遠慮な笑い声だけが廊下じゅうに高く反響して聞えている三四人の女たちの喋り声。例によっ・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・鉄工場に働いたり、あるいは酸素打鋲器をあつかっている労働者、製菓会社のチョコレート乾燥場などの絶え間ない鼓膜が痛むような騒音と闘って働いている男女、独特な聴神経疲労を感じている電話交換手などにとって、ある音楽音はどういう反応をひき起すか、ど・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・人が絶え間なくその前にたかり、或る者は手帳を出して書名をひかえている。或る者は直ぐ黒い上被りを着た店員に別の棚からその本を出して貰い、金を払っている。 成程これは、ソヴェト同盟らしい親切なやりかただ。ただ新刊書を一まとめにして、丸善の棚・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 実際、所謂女仲間に入って見ますと、私などは、かなり出しゃ張りの方でも、その絶え間ない早口と、戯談と寸刻もじっとして居ない態度とは、神経を気の毒なほど疲らせてくれます。 女の人の寄宿舎などは、まるで、今海から上げた大漁の網そのままの・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・名利を思うて煩悶絶え間なき心の上に、一杓の冷水を浴びせかけられたような心持ちがして、一種の涼味を感ずるとともに、心の奥より秋の日のような清く温かき光が照らして、すべての人の上に純潔なる愛を感ずることができた」という個所のあるのに対して、特別・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫