・・・その頃訴訟のため度々上府した幸手の大百姓があって、或年財布を忘れて帰国したのを喜兵衛は大切に保管して、翌年再び上府した時、財布の縞柄から金の員数まで一々細かに尋ねた後に返した。これが縁となって、正直と才気と綿密を見込まれて一層親しくしたが、・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ お里は、よく物を見てから借りて来たのであろう反物を、再び彼の枕頭に拡げて縞柄を見たり、示指と拇指で布地をたしかめたりした。彼女は、彼の助言を得てから、何れにかはっきり買うものをきめようと思っているらしかった。しかし、清吉にはどういう物・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・「だってあの縞柄じゃ……」 園子は、ばあさんの着物のことを心配していた。彼女の眼のさきで働いているばあさんの垢にしみたような田舎縞が気になるらしかった。ばあさんは、自分のことを云われると、独りでに耳が鋭くなった。丁度、彼女は二階の縁・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・丹精して造ったもので、縞柄もおとなしく気に入っていた。彼女はその下着をわざと風変りに着て、その上に帯を締めた。 直次の娘から羽織も掛けて貰って、ぶらりと二番目の弟の家を出たが、とかく、足は前へ進まなかった。 小間物屋のある町角で、熊・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・お召の縞柄を論ずるには委しいけれど、電車に乗って新しい都会を一人歩きする事なぞは今だに出来ない。つまり明治の新しい女子教育とは全く無関係な女なのである。稽古唄の文句によって、親の許さぬ色恋は悪い事であると知っていたので、初恋の若旦那とは生木・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・同じ様な意味で、縞柄とか模様、色彩などがなんとなく同一傾向のものであって、東京の電車の中で見る様な、突飛な服装をしているものはついぞ発見し得ない。強いて云えば京都風というもので統一されてしまっている。 所が、東京は全く雑然としている。お・・・ 宮本百合子 「二つの型」
出典:青空文庫