・・・ 然るに全校の人気、校長教員を始め何百の生徒の人気は、温順しい志村に傾いている、志村は色の白い柔和な、女にして見たいような少年、自分は美少年ではあったが、乱暴な傲慢な、喧嘩好きの少年、おまけに何時も級の一番を占めていて、試験の時は必らず・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・御覧なさいまし、『八犬伝』は結城合戦に筆を起して居ますから足利氏の中葉からです、『弓張月』は保元からですから源平時代、『朝夷巡島記』は鎌倉時代、『美少年録』は戦国時代です。『夢想兵衛胡蝶物語』などは、その主人公こそは当時の人ですが、これはま・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・色が白いから、それでも可成りの美少年に見える。身長骨骼も尋常である。頭は丸刈りにして、鬚も無いが、でも狭い額には深い皺が三本も、くっきり刻まれて在り、鼻翼の両側にも、皺が重くたるんで、黒い陰影を作っている。どうかすると、猿のように見える。も・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・おまけに、――美少年だ! 僕は君の瞳のなかにフレキシビリティの極致を見たような気がする。そうだ。知性の井戸の底を覗いたのは、僕でもない太宰でもない佐竹でもない、君だ! 意外にも君であった。――ちぇっ! 僕はなぜこうべらべらしゃべってしまうの・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・親類には大きい尼寺の長老になっている尼君が大勢あって、それがこの活溌な美少年を、やたらに甘やかすのである。 二三年勤める積で、陸軍には出た。大尉になり次第罷めるはずである。それを一段落として、身分相応に結婚して、ボヘミアにある広い田畑を・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・Rは当時有名な美少年であったがKも相当な好男子であった。その時KがRに「オイ、R、ふるえちゃいかんよ」と云ってからかった。その言葉の中に複雑なKの心理の動きが感ぜられておかしかった。もっともそんなつまらないことを覚えているのは、当時の自分の・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
出典:青空文庫