・・・な事もなかろう、一家必ず服を整え心を改め、神に感謝の礼を捧げて食事に就くは、如何に趣味深き事であろう、礼儀と興味と相和して乱れないとせば、聖人の教と雖も是には過ぎない、それが一般の風習と聞いては予は其美風に感嘆せざるを得ない、始めて此の如き・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・一 家の美風その箇条は様々なる中にも、最も大切なるは家族団欒相互に隠すことなきの一事なり。子女が何かの事に付き母に語れば父にも亦これを語り、父の子に告ぐることは母も之を知り、母の話は父も亦知るようにして、非常なる場合の外は一切万事に秘密・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・かの国々の男子が不品行を犯すは、初めよりその不品行なるを知り、あたかも輿論に敵して窃かにこれを犯すことなれば、その事はすべて人間の大秘密に属して、言う者もなく聞く者もなく、事実の有無にかかわらず外面の美風だけはこれを維持してなお未だ破壊に至・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・その信じがたいことを、美風としてその校長は考え、そう考えることは常規を逸して殆ど精神の病気であるのだから、児童の薫陶などはゆだねておけない事を証明するのだとは考えなかったのである。 さすがにそれをきいた人たちは呆然としたそうだが、そこま・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・彼等の最終の呪文は、我国古来の美風を忘れて、徒に浮薄な米国婦人等に其の範をとるのは杞うべき事、恥ずべき事である、と云うのに終りますでしょう。 我国古来の美風――友よ、其なら貴方はその美風が如何なるものであるか御説明下さいますか? 彼は、・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・の委員であった諸氏の内には、もとより混り気のない心持で、日本の美風良俗をいかがわしい自然主義の傾向から守ろうと思って参加していた人達もあったであろう。しかし今日歴史の大局から当時を顧みれば「文芸委員会」の客観的本質は、偽善なく現実社会の曝露・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
出典:青空文庫