・・・現代の世界の未亡人の歴史的な意味は、これら老若幾千万の女性たちが、自身のはかりしれない涙と不幸との理由をしっかり人類の進歩の中に理解した、というところにある。第一次欧州大戦の後のように、婦人として平和を希望する、というような弱々しい心情から・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・現代の科学力は、それが国際的な軍需生産者の独占資本に使役されるとき、戦争行為におかれた国々の軍事的拠点に、想像できないほど巨大な破壊力を加えるばかりでなく、その周辺の全く無罪な人民の生命を、老若の差別なくみな殺しにする。この事実はナガサキと・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・為に、老若と云う時間的な差は、全く相互の人間的連鎖を破壊し、一つ地上に生活していながら草木に対する程の愛さえ、互に持ち得ない場合があるのです。科学者の或る者は、自然の大律である淘汰の原則によって、そうであると云うかも知れません。生物学的の立・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・それから老若打ち寄って酒宴をした。それから老人や女は自殺し、幼いものはてんでに刺し殺した。それから庭に大きい穴を掘って死骸を埋めた。あとに残ったのは究竟の若者ばかりである。弥五兵衛、市太夫、五太夫、七之丞の四人が指図して、障子襖を取り払った・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・顔形、それは老若の違いこそはあるが、ほとほと前の婦人と瓜二つで……ちと軽卒な判断だが、だからこの二人は多分母子だろう。 二人とも何やら浮かぬ顔色で今までの談話が途切れたような体であッたが、しばらくして老女はきッと思いついた体で傍の匕首を・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・やがて数十人の老若の僧侶が夢の中に歩く人のごとく静かに現われて、偶像の前に合掌礼拝しあるいはひざまずきあるいは佇立する。柔らかな衣の線の動き。華やかな衣の色の対照。群集の規律ある動作によって起こる劇的効果。堂内の空気はますます緊張を加えて行・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫