・・・もっとも胎生動物の母胎の伸縮も同様な例としてあげられるかもしれないが、しかしこの蛇のように僅少な時間にこんなに自由に伸びるのは全く珍しいと言わなければなるまい。これにはきっと特別な細胞や繊維の特異性があるに相違ないが、ちょっとした動物学の書・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ちょうど人間が胎児であったとき、その成長の過程で、ごく初期の胎生細胞はだんだん消滅して、すべて新しい細胞となって健康な赤ん坊として生れてくる。けれどももし何かの自然の間違いで、胎生細胞がいくつか新しくなりきらないで、人間のからだの中にのこっ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・明治初頭十年十五年間の社会事情を真面目に観察すれば、日本の開化期文化・文学の複雑な胎生を見逃すことは出来ない。旧時代の文学的伝統は仮名垣魯文その他の戯作者の生きかたに伝え嗣がれており、維新と開化とに対して、江戸っ子であり旧時代の文化の代表で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 自由党が禁圧せられ、国会開設が決定され、今日殆ど総ての作家によって理解されている日本の資本主義の特徴ある性質が組織化されてはっきり正面に押し出されて来ると同時に、文筆、言論の文化的分野には、この胎生期の奔放、自由が失われた。今日ごく手・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫