・・・ その内、一本根から断って、逆手に取ったが、くなくなした奴、胴中を巻いて水分かれをさして遣れ。 で、密と離れた処から突ッ込んで、横寄せに、そろりと寄せて、這奴が夢中で泳ぐ処を、すいと掻きあげると、つるりと懸かった。 蓴菜が搦んだ・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・息もつかず、もうもうと四面の壁の息を吸って昇るのが草いきれに包まれながら、性の知れない、魔ものの胴中を、くり抜きに、うろついている心地がするので、たださえ心臓の苦しいのが、悪酔に嘔気がついた。身悶えをすれば吐きそうだから、引返して階下へ抜け・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 要するに、市、町の人は、挙って、手足のない、女の白い胴中を筒切にして食うらしい。 その皮の水鉄砲。小児は争って買競って、手の腥いのを厭いなく、参詣群集の隙を見ては、シュッ。「打上げ!」「流星!」 と花火に擬て、縦横や十・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・しかし太い了簡だ、あの細い胴中を、鎖で繋がれる様が見たいと、女中達がいっておりました。ほんとうに女形が鬘をつけて出たような顔色をしていながら、お米と謂うのは大変なものじゃあございませんか、悪党でもずっと四天とその植木屋の女房が饒舌りました饒・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ 渋色の逞しき手に、赤錆ついた大出刃を不器用に引握って、裸体の婦の胴中を切放して燻したような、赤肉と黒の皮と、ずたずたに、血筋を縢った中に、骨の薄く見える、やがて一抱もあろう……頭と尾ごと、丸漬にした膃肭臍を三頭。縦に、横に、仰向けに、・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ 爺さんは泣きながら、手や足や胴中を集めて、それを箱の中へ収いました。そして、最後に、子供の頭をその中へ入れました。それから、見物の方を向くと、こう言いました。「これはわたくしのたった一人の孫でございます。わたくしは何処へ参るにも、・・・ 小山内薫 「梨の実」
・・・少しあるくと道は突然中断されて、深い掘割が道と直角に丘の胴中を切り抜いていた。向うに見える大きな寺がたぶん総持寺というのだろう。 松林の中に屋根だけ文化式の赤瓦の小さな家の群があった。そこらにおむつが干したりしてあるが、それでもどこかオ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・たとえ胴中を枝の貫通した鳥の絵は富豪の床の間の掛物として工合が悪いかもしれぬが、そういう事を無視して絵を画く人が存在するという事実自身が一つの注目すべき啓示ではあるまいか。自分は少し見ているうちにこの種の非科学的な点はもうすっかり馴れてしま・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ だが、第三金時丸は、三千三十噸の胴中へ石炭を一杯詰め込んだ。 彼女はマニラについた。 室の中の蠅のように、船舶労働者は駆けずり廻って、荷役をした。 彼女は、マニラの生産品を積んで、三池へ向って、帰航の途についた。 水夫・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・と云いながらかげろうの胴中にむんずと噛みつきました。 かげろうはお茶をとろうとして出した手を空にあげて、バタバタもがきながら、「あわれやむすめ、父親が、 旅で果てたと聞いたなら」と哀れな声で歌い出しました。「えい。やかま・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
出典:青空文庫