・・・その人の自伝によりますれば、「米を一俵取ったときの私の喜びは何ともいえなかった。これ天が初めて私に直接に授けたものにしてその一俵は私にとっては百万の価値があった」というてある。それからその方法をだんだん続けまして二十歳のときに伯父さんの家を・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・平凡な人生を平凡な筆で正直にありのままに書くことが、作家として純粋だという考え方は、まるで文学のノスタルジアのように思われているが、自伝というものは、非凡な人間が語ってこそ興味があるので、われわれ凡人がポソポソと語って、何が面白かろう。しか・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・ ぼくは、今月中から、自伝を覚えたままに書いて行きたいと思うのです。が、『春服』が目茶苦茶なので悲観しているのです。『春服』が立ち直る迄なりと、一つ、月々五十枚位載せて貰える、あなたの知っている同人雑誌に紹介してくれませんか。同人費は払いま・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・そしてアグネス・スメドレイの自伝風な小説「女一人大地を行く」の中に描かれているアメリカの庶民階級の娘としての少女時代、若い女性として独立してゆく苦闘の過去こそ、それの背景となった社会がアメリカであるとドイツであるとの違いにかかわらず、ケーテ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ ゆうべは良さん、ター坊の親たち、重治さん、栄さん夫婦などと、どじょうのおつゆをたべて大変面白くいろいろ――アンデルセンの自伝のことその他を話しました。 きょうは、手紙をいただいて、笑い出しつつ握って振ったゲンコをこのような形にかえ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 獄中生活者を描いて出場した島木健作氏はこの時代、農民組合の経験をめぐっての諸作に移って来ており、徳永直氏は『文学評論』に自伝的な「黎明期」を連載しつつ、他方に「彷徨える女の手紙」「女の産地」等の小説を発表し、両者の間に見られる様々の矛・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ これは、まるで方面は違うが、一寸物ずきで、パンカアスト夫人の自伝をのぞいた。彼女は何と云っても女性文化史の上に特*ある一点を描く人だが、最初に、自分が物心ついてから或る感激を以て聴き記憶した第一の言葉は自由、正義と云う文句だ、と云うよ・・・ 宮本百合子 「新緑」
此度山田さんの自伝的小説『地上に待つもの』が出版されるに当って、何人かの友人らに混って短い感想を書く因縁に立ち到ったことを私は一種の感動をもって考えるのである。 山田さんは、『種蒔く人』時代から日本のプロレタリア文学運・・・ 宮本百合子 「『地上に待つもの』に寄せて」
アグネス・スメドレーの「女一人大地を行く」という自伝的な小説は一九二九年アメリカで出版されて以来、殆ど世界各国語に訳され、日本でも少なからず読まれた。 この間、窪川稲子さんに会ったら、或る若い勤労婦人のひとで、この小説・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・ ただ一八八八年生れのシャギニャーンが一九〇五年の革命の時、中学校の八年生で、学生委員会の代表をやったことを、短い自伝の中に書いている。「十月」にまで高まりつつあったロシアの人民の革命的発展というものに、大して密接な関係なく、彼女た・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫