・・・自欲のための忍従であり、労働であればこそ不平も起るけれど、真理への道程であると考えた時には、現在の艱苦に打克つだけの決心がなくてはならない。 これを思う時、婦人開放も、婦人参政も、すべての運動は独り女子のみに限ったことでないことを知るで・・・ 小川未明 「婦人の過去と将来の予期」
・・・の木彫に出会って、これが自分で捌き得る人物だろうかと、大に疑懼の念を抱かざるを得なくなり、又今更に艱苦にぶつかったのであった。 主人の憤怒はやや薄らいだらしいが、激情が退くと同時に冷透の批評の湧く余地が生じたか、「そちが身を捨て・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・寺の僧侶が毎朝早起、経を誦し粗衣粗食して寒暑の苦しみをも憚らざれば、その事は直ちに世の利害に関係せざるも、本人の精神は、ただその艱苦に当たるのみを以て凡俗を目下に見下すの気位を生ずべし。天下の人皆財を貪るその中に居て独り寡慾なるが如き、詐偽・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・そういう女の甘さや感傷が、自身は暖い炉辺で慰問靴下をあみつつ、美食家のエネルギーで戦線の英雄的行動をしゃべり、スリルを味っている女たちに対する憎悪とともに、どのくらい深刻に思慮ある男、現実の艱苦の中にある男の感情を索漠とさせるものであるか。・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・前衛としての知識人の負う艱苦、犠牲は運動の退潮期には猛烈であるから、一般的敗北の跡の検討ということは、冷静に、確乎性をもって歴史的な眼から行われ難い。船が難破しかかったとき、最後にその船を転覆させて自分たちの命もすてさせてしまうのは、舷の傾・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ 今日の私たち日本の人民は、日本の生活がこのようにも艱苦にみち、引裂かれているからこそ、ひとしお、わがふるさとを、深い心に抱きとっていると思う。建設のための犠牲の日々であるからこそ、おのおのの生を厳粛に自覚し、新しい民主日本のために其の・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫