・・・がきれて「花子」のかけあいがすむと、房さんは「どうぞ、ごゆるり。」と挨拶をして、座をはずした。丁度、その時、御会席で御膳が出たので、暫くはいろいろな話で賑やかだったが、中洲の大将は、房さんの年をとったのに、よくよく驚いたと見えて、「ああ・・・ 芥川竜之介 「老年」
・・・と、花子さんもききました。「ええ、あめ屋になりましたよ。」「どうして?」「紙芝居がたくさんになって、話では、はやりませんから、これからあめで、なんでも造りますから買ってくださいね。」と、おじさんは、いいました。 そこへ、英ち・・・ 小川未明 「夏の晩方あった話」
・・・一立斎広重の板画について、雪に埋れた日本堤や大門外の風景をよろこぶ鑑賞家は、鏡花子の筆致のこれに匹如たることを認めるであろう。 鉄道馬車が廃せられて電車に替えられたのは、たしか明治三十六年である。世態人情の変化は漸く急激となったが、しか・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・お母さんがいたなら、お前を故郷へ連れて行くと、どんなに可愛がって下さるだろうと、平田の寝物語に聞いていた通り可愛がッてくれるかと思うと、平田の許嫁の娘というのが働いていて、その顔はかねて仲の悪い楼内の花子という花魁そのままで、可愛らしいよう・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・村岡花子が日本の女流作家だそうです。 十一月八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より〕 今日は嬉しいことがあります。オリザビトンが五つ程みつかりました。今そちらにいくつかあるでしょうから、これですくなくとも一月までは持ちます・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・昨今婦人代議士のいうことは戦時中村岡花子や山高しげりその他の婦人達が婦人雑誌や地方講演に出歩いて、どうしてもこの戦いを勝たすために、挙国一致して「耐乏生活」をやりとげてくださいと説いてまわったと同じような「耐乏生活」の泣きおとしです。今日彼・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・それを見つける人の目次第で美しいところがあると信じているロダンは、この間から花子という日本の女が varitワリエテエ に出ているということを聞いて、それを連れて来て見せてくれるように、伝を求めて、花子を買って出している男に頼んでおいたので・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫