・・・ 少くとも、非常な場合に、結婚と同様な、一種の人格的飛躍で、その域に達し得るだけの叡智を持っていることだけは自信したいのです。 持ちたい、見たい、語り度い、という執念からは解脱したく、またすべきであると思わずにはいられません。 ・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・という言葉であった。ケーテはその父の忠言に対して何と答えたのであったろうか。それは伝えられていない。けれども、その時ケーテの心には日頃「才能というものは一つの義務である」という叡智のこもったいいあらわし方で、くりかえし語っていたお祖父さんユ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・つの狭い利己的な封鎖的な安泰の希願からどんなに広い、社会や、世界の生活への理解と、その中で自分の存在について、つつましいながら、確信をもって生きられるように次の世代を愛しはぐくみ、勇気づけ、より多くの叡智をつたえて行ったか、そのことでこそ世・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・この二人の作家の間にある違いは多くの要因を持っていますが、一つは明らかに純正な人間の叡智の敗北の悲劇を自覚したものと、バルザックのようにそれは自覚しなかった作家との違いだと思います。文学の精神の相異がここに何とはっきり出ているでしょう。カロ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・然し、究極に於て各人の叡智と愛との根源に還る問題ではありますまいか。 人類の最も本質的な、最も純粋であるべき結婚、離婚の問題を、最初に而して最後に決する事は心です。心の如何による丈です。〔一九二一年二月〕・・・ 宮本百合子 「心ひとつ」
・・・ ジイドも、彼の細君の発熱についてはそういう本質の差を知っており、又当然知ろうとするであろうのに、芸術家の死命を制する人間的叡智の根源において、歴史の相貌の質的相異の知覚を失っているばかりか、それを自ら恐怖しもしないというのは、何という・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・これこそ人間の叡智の芽であるから、決しておろそかに扱ってはならないということです。幼児について云われているこのことは、どうして人間の生涯のあらゆる時期により、深い成長発展のモメントとしてとりあげられて悪いでしょう。「何故?」という二語、「ど・・・ 宮本百合子 「最初の問い」
・・・もしも人々に健康な叡智があるなら、感覚派と呼ばれる人々は更に生活の感覚化と文学的感覚表徴とを一致させては危険である。いやそれより若しも生活の感覚化がより真実なる新時代への一致として赦され強要せられなければならないものとしたならば、少くとも文・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・その各自の熱情に従って、その美しき叡智と純情とに従って、もしも其爆発力の表現手段が分裂したとしたならば、それは明日の文学の祝福すべき一大文運であらねばならぬ。そうして、明日の文学は分裂するであろう。大いなる酒神は、かの愚な時計の振り子の如く・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・それを機縁として私のファウストが真の叡智を得て行くのである。……メフィストを跳梁させてはいけない。しかしメフィストのゆえに苦しむのはよいことだ。メフィストがあまりに早く離れ去らなかったことは、喜ばなくてはいけないだろう。メフィストのいること・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫