近藤君は漫画家として有名であった。今は正道を踏んだ日本画家としても有名である。 が、これは偶然ではない。漫画には落想の滑稽な漫画がある。画そのものの滑稽な漫画がある。或は二者を兼ねた漫画がある。近藤君の漫画の多くは、こ・・・ 芥川竜之介 「近藤浩一路氏」
・・・どんなに面白い女か、どんな途方もない落想のある女かと云うことが、段々知れて来るのである。貴族仲間の禁物は退屈と云うものであるに、ポルジイはこの女と一しょにいて、その退屈を感じたことが、かつてない。ドリスはフランス語を旨く話す。立居振舞は立派・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・文人は年を取るにしたがって落想が鈍くなる。これは閲歴の爛熟したものの免れないところである。そこで時々想像力を強大にする策を講ぜなくてはならない。それには苟くも想像力にうぶな、原始的な性能を賦し、新しい活動の強みを与えるような偶然の機会があっ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・むつかしく云えば落想とでも云うのかなあ。独逸語なら Einfaelle とでも云うのだろう。しかし己は嘘は言わないから、誰も落ち込みはしない。己は遣って来る人の性質や伎倆や境遇を見て、その人に出来そうな為事を授けるのだ。それで成功したものが・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫