・・・それは邯鄲の歩みを学ばないうちに寿陵の歩みを忘れてしまい、蛇行匍匐して帰郷したと云う「韓非子」中の青年だった。今日の僕は誰の目にも「寿陵余子」であるのに違いなかった。しかしまだ地獄へ堕ちなかった僕もこのペン・ネエムを用いていたことは、――僕・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・歴史をその純粋な現われにまで還元することである。蛇行して達しうる人間の実際の方向を、直線によって描き直すことである。もし社会主義の思想が真理であったとしても、もし実行という視角からのみ論ずるならば、その思想の実現に先だって、多くの中間的施設・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・ 北上川の蛇行水路の右岸の平野に低湿の沼沢地が一面に分布しているのは不思議である。河流が完成して後に一体の地盤が沈降したのではないかと疑われる。これは地形学者の説を聞いてみなければ分らない。 平泉の旧跡はなるほど景勝の地である。都市・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 河流の蛇行径路については従来いろいろの研究があり、かの有名なアルベルト・アインシュタインまでが一説を出していたようである。しかし場合によっては、これが単に河水の浸蝕作用だけではなくて、もっと第一次的な地殻変形の週期性によって、たとえ全・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・昔の東海道の杉並木の名残が、蛇行する自動車道路を直線的に切っているのが面白い。平野ではこれと反対に旧道の曲線を新道の直線で切っている場合が多いのである。人間の足と自動車とでは器械がちがうだけに「道路の科学」もまた違った解答を与えるのであろう・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
出典:青空文庫