・・・なるほど、勇吉の家が、表側ぱっと異様に明るく、煙もにおう。気負って駆けつけ、「水だ、水だ、皆手を貸せ」と叫んだ勘助は、おやと尋常でないその場の光景に気をのまれた。勇吉の家では、今障子に火がついたところだ。ひどい勢いで紙とさんが燃え上・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・退屈きわまる裁縫室の外には、ひろい廊下と木造ながらどっしりしたその廊下の柱列が並んでそういう柱列は、表側の上級生の教室のそとにもあった。日がよく当って、砂利まで日向の香いがするような冬のひる休み時間、五年生たちがその柱列のある廊下の下に多勢・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・ ネ河のはやいひろい音のない流れでめまいしそうなのは表側――河岸通に向った室だけだった。壁画のある、天井の高い大食堂の窓からは、灰色のうろこ形スレートぶきの小屋根、その頂上の風見の鳩、もと礼拝所であったらしい小さい四角い塔などが狭くかた・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・その長方形が表側と裏側とに分れていて、裏側が勝手になっているのである。 東京から来た石田の目には、先ず柱が鉄丹か何かで、代赭のような色に塗ってあるのが異様に感ぜられた。しかし不快だとも思わない。唯この家なんぞは建ててから余り年数を経たも・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫