・・・前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微していた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所・・・ 芥川竜之介 「羅生門」
・・・私たちの母の説に依れば、百年ほど前から既に世界は、男性衰微の時代にはいっているのだそうでして、肉体的にも精神的にも、男性の疲労がはじまり、もう何をやっても、ろくな仕事が出来ない劣等の種族になりつつあるのだそうで、これからはすべて男性の仕事は・・・ 太宰治 「女神」
・・・入谷の朝顔と団子坂の菊人形の衰微は硯友社文学とこれまたその運命を同じくしている。向島の百花園に紫や女郎花に交って西洋種の草花の植えられたのを、そのころに見て嘆く人のはなしを聞いたことがあった。 銀座通の繁華が京橋際から年と共に新橋辺に移・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・ 批判精神のそのような衰微が皆の注目をひきながら、その時分それの健康な道への恢復のための努力が充分されなかったという理由はどこに在っただろう。或は少数の努力がその功を十分に発揮せず大勢としては益々衰弱的方向が一路辿られて今日に及んでいる・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
出典:青空文庫