・・・が、あのまだ物を見ている、大きく開けた目の上に被さる刹那に、このまだ生きていて、もうすぐに死のうとしている人の目が、外の人にほとんど知れない感情を表現していたのである。それは最後に、無意識に、救を求める訴であった。フレンチがあれをさえ思い出・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・ 霜風は蝋燭をはたはたと揺る、遠洋と書いたその目標から、濛々と洋の気が虚空に被さる。 里心が着くかして、寂しく二人ばかり立った客が、あとしざりになって……やがて、はらはらと急いで散った。 出刃を落した時、赫と顔の色に赤味を帯びて・・・ 泉鏡花 「露肆」
出典:青空文庫