・・・二度と再び島田に裏切るような不品行をしたなら、最う世の中へ出て来られない。一生の廃れ者になってしまう。」七 その頃私はマダ沼南と交際がなかった。沼南の味も率気もない実なし汁のような政治論には余り感服しなかった上に、其処此処で・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・これに比して人間は、ただ利害によって彼等を裏切ることをなんとも思っていない。それは、自己防衛する術を知らぬ、動物の報復について考えを要せぬからであります。それ故に、僅かに、神の与えた聡明と歯牙に頼るより他は、何等の武器をも有しない、すべての・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・「私は君を、裏切ることは無い。」 エゴが喪失してしまっているのだ。それから、――と言いかけて、これも言いたくなし。もう一つ言える。私を信じないやつは、ばかだ。 さて、兵隊さんの原稿の話であるが、私は、てれくさいのを堪えて、編輯者にお・・・ 太宰治 「鴎」
・・・或いは御厚意裏切ること無いかと案じています。では、取急ぎ要用のみ。前略、後略のまま。大森書房内、高折茂。太宰学兄。」「僕はこの頃緑雨の本をよんでいます。この間うちは文部省出版の明治天皇御集をよんでいました。僕は日本民族の中で一ばん血統の・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・どうか、もう一年、おゆるし下さい、と長兄に泣訴しては裏切る。そのとしも、そうであった。その翌るとしも、そうであった。死ぬるばかりの猛省と自嘲と恐怖の中で、死にもせず私は、身勝手な、遺書と称する一聯の作品に凝っていた。これが出来たならば。そい・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・どうか、もう一年、おゆるし下さい、と長兄に泣訴しては裏切る。そのとしも、そうであった。その翌るとしも、そうであった。死ぬるばかりの猛省と自嘲と恐怖の中で、死にもせず私は、身勝手な、遺書と称する一聯の作品に凝っていた。これが出来たならば。そい・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ 新しい徒党の形式、それは仲間同士、公然と裏切るところからはじまるかもしれない。 友情。信頼。私は、それを「徒党」の中に見たことが無い。 太宰治 「徒党について」
・・・土佐の貧乏士族の子の雑煮に対する概念を裏切るような贅沢なものであった。比較にならぬほど上等であるために却って正月の雑煮の気分が出なくて、淡い郷愁を誘われるのであった。 東京へ出て来て汁粉屋などで食わされた雑煮は馴れないうちは清汁が水っぽ・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
・・・ しかしそういう方法によって進歩して来た結果はかえってその方法自身を裏切る事になった。物質の不連続的構造はもはや仮説の域を脱して、分子や原子、なおその上に電子の実在が動かす事の出来ないようになった。その上にエネルギーの推移にまでも或る不・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 唖々子はかつて硯友社諸家の文章の疵累を指したように、当世人の好んで使用する流行語について、例えば発展、共鳴、節約、裏切る、宣伝というが如き、その出所の多くは西洋語の翻訳に基くものにして、吾人の耳に甚快らぬ響を伝うるものを列挙しはじめた・・・ 永井荷風 「十日の菊」
出典:青空文庫