・・・地方の盛場には時々見掛ける、吹矢の機関とは一目視て紫玉にも分った。 実は――吹矢も、化ものと名のついたので、幽霊の廂合の幕から倒にぶら下がり、見越入道は誂えた穴からヌッと出る。雪女は拵えの黒塀に薄り立ち、産女鳥は石地蔵と並んでしょんぼり・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・路ばたでも竹の子のずらりと明るく行列をした処を見掛けるが、ふんだんらしい、誰も折りそうな様子も見えない。若竹や――何とか云う句で宗匠を驚したと按摩にまで聞かされた――確に竹の楽土だと思いました。ですがね、これはお宅の風呂番が説破しました。何・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・本郷の永盛の店頭に軍服姿の鴎外を能く見掛けるという噂を聞いた事もある。その頃偶っと或る会で落合った時、あたかも私が手に入れた貞享の江戸図の咄をすると、そんな珍本は集めないよ、僕のは安い本ばかりだと、暗に珍本無用論を臭わした。が、その口の端か・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・、僕のようなぶざいくな男でも、にわかにムラムラ自信が出て来て、そうしてその揚句、男はその女のひとに見っともないくらい図々しく振舞い、そうして男も女も、みじめな身の上になってしまうというのが、世間によく見掛ける悲劇の経緯のように思われます。女・・・ 太宰治 「女類」
・・・お教えせずとも、あなたは、いつか私を見掛ける。 太宰治 「待つ」
出典:青空文庫