・・・期限までに仕上ると、会社から組には十万円、組から親方には三万円の賞与が出るのだ。仕上らないと罰金だ。 何しろ、ポムプへ引いてある動力線の電柱が、草見たいに撓む程、風が雪と混って吹いた。 鼻と云わず口と云わず、出鱈目に雪が吹きつけた。・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・ 不人情なことを云うと承知しねえぞ、ボースン、ボースンと立てときゃ、いやに親方振りやがって、そんなボーイ長たあ、ボーイ長が異うぞ! 此野郎、行って見ろったら行って見ろ!」 見習は、六尺位の仁王様のように怒った。「ほんとかい」「ほ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・「早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。」 二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。 そのときうしろからいきなり、「わん、わん、ぐゎあ。」という声がして・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・みんな親方がしまってしまうんだよ。許してお呉れ。許してお呉れ。」 ネネムが云いました。「そうか。するとお前は毎日ただ引っぱり廻されて稼がせられる丈けだな。」「そうだよ、そうだよ。僕を太夫さんだなんて云いながら、ひどい目にばかりあ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・向側の鏡が、九枚も上手に継いであって、店が丁度二倍の広さに見えるようになって居り、糸杉やこめ栂の植木鉢がぞろっとならび、親方らしい隅のところで指図をしている人のほかに職人がみなで六人もいたのです。すぐ上の壁に大きながくがかかって、そこにその・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・これがおれたちの親方の紋だ。」 そしてポキリと枝を折りました。赤いダァリヤはぐったりとなってその手のなかに入って行きました。「どこへいらっしゃるのよ。どこへいらっしゃるのよ。あたしにつかまって下さいな。どこへいらっしゃるのよ。」二つ・・・ 宮沢賢治 「まなづるとダァリヤ」
・・・父をカール・シュミット、母をケーテ・ループといい、娘ケーテの生れた時代のシュミット一家は、ケーニヒスベルクの左官屋の親方として、なかなか大規模の生活を営んでいた。 父親のカール・シュミットという人は、ありふれた左官屋の親方ではなかった。・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
新築地の「建設の明暗」はきっと誰にとっても終りまですらりと観られた芝居であったろうと思う。 廃れてゆく南部鉄瓶工の名人肌の親方新耕堂久作が、古風な職人気質の愛着と意地とをこれまで自分の命をうちこんで来た鉄瓶作りに傾けて・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・アの中学校、実務学校、予備学校における学生の出身階級の分布 世襲貴族の子弟 六・三 貴族及高官 一八・四 宗教家 四・八 紳士及紳商 九・六 商人、組合の親方 三二・一 富農とカザーク ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・「死にゃお前結構やが、運の悪い時ゃ悪いもんで、傷ひとつしやへんのや。親方に金出さそうと思うたかて、勝手の病気やぬかしてさ。鐚銭一文出しやがらんでお前、代りに暇出しやがって。」「そうか、道理で顔が青いって。」「そうやろが。」「・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫