・・・それを解決したところで、今までのようにルーズな姉の生活と、無能な甥や、虚栄心の強い気儘な姪の性質を、根本的に矯正しない以上、何をしでかすか判らなかった。道太は宿命的に不運な姉やその子供たちに、面と向かって小言を言うのは忍びなかった。それに弱・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ 二の難事はいかに解決するだろう。解決のしかたによっては、僕は家を売り蔵書を市に鬻いで、路頭に彷徨する身となるかも知れない。僕は仏蘭西人が北狄の侵略に遭い国を挙げてマルンの水とウェルダンの山とを固守した時と同じ場合に立った。痩せ細った総・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・評家はまず世間と作家とに向って文学はいかなる者ぞと云う解決を与えねばならん。文学上の述作を批判するにあたって批判すべき条項を明かに備えねばならぬ。あたかも中学及び高等学校の規定が何と何と、これこれとを修め得ざるものは学生にあらずと宣告するが・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
世界はそれぞれの時代にそれぞれの課題を有し、その解決を求めて、時代から時代へと動いて行く。ヨウロッパで云えば、十八世紀は個人的自覚の時代、所謂個人主義自由主義の時代であった。十八世紀に於ては、未だ一つの歴史的世界に於ての国家と国家との・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・――その解決が付けば、まずそのライフだけは収まりが付くんだから。で、私の身にとると「くたばッて仕舞え!」という事は、今でも有意味に響く。そこでこの心持ちが作の上にはどう現れているかと云うと、実に骨に彫り、肉を刻むという有様で、非常な苦労で殆・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・向こうから聞いた上でこっちは解決をつけてやる丈だから。」「もうし。」爾薩待「はい。」農民二「植物医者づのぁお前さんだべすか。」爾薩待「ええ、そうです。」農民二「陸稲のごとでもわがるべすか。」爾薩待「ああわかり・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・ 婦人問題、その問題を何とか解決してゆこうとする婦人運動。それは永年日本にも存在していた。けれども、それらの婦人運動は、婦選運動をもふくめて、まことに微々たるものであった。そういう運動に携っている婦人たちに対して、一般の婦人が一種皮肉な・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・それでも屈せずに、選んだ問題だけは、どうにかこうにか解決を附けた。自分ではひどく不満足に思っているが、率直な、一切の修飾を却けた秀麿の記述は、これまでの卒業論文には余り類がないと云うことであった。 丁度この卒業論文問題の起った頃からであ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・それは数学の排中律に似た解決困難な問題だった。栖方は、その中心の渦中に身をひそめて呼吸をして来たのであってみれば、父と母との争いのどちらに想いをめぐらせるべきか、という相反する父母二つの思想体系にもみぬかれた、彼の若若しい精神の苦しみは、想・・・ 横光利一 「微笑」
・・・そこにある苦しい戦いは、裸になって冬の海に飛び込むことによっては、解決されそうにもなかった。私はただ自分のやり方で、自分の内生に、あの集中と純一とを獲得するほかはない。そのためには私のすべての戦いを終局まで戦わなくてはならぬ。勝利を得るまで・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫