・・・「ある時石川郡市川村の青田へ丹頂の鶴群れ下れるよし、御鳥見役より御鷹部屋へ御注進になり、若年寄より直接言上に及びければ、上様には御満悦に思召され、翌朝卯の刻御供揃い相済み、市川村へ御成りあり。鷹には公儀より御拝領の富士司の大逸物を始め、・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・と、口を揃えて言上しました。 閻魔大王は眉をひそめて、暫く思案に暮れていましたが、やがて何か思いついたと見えて、「この男の父母は、畜生道に落ちている筈だから、早速ここへ引き立てて来い」と、一匹の鬼に言いつけました。 鬼は忽ち風に・・・ 芥川竜之介 「杜子春」
・・・燕も何かたいへんよい事をしたように思っていそいそと王子のお肩にもどって来て今日の始末をちくいち言上におよびました。 次の朝燕は、今日こそはしたわしいナイル川に一日も早く帰ろうと思って羽毛をつくろって羽ばたきをいたしますとまた王子がおよび・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・としたためたかきつけと、東京方面の事情を上奏する書面を入れた報告筒を投下し、胸をとどろかせてまっていると、下から大きな旗がふりはじめられたので、かしこみよろこんで、帰還し 摂政宮殿下に言上しました。 皇族の方々のおんうち、東京でおやしき・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・白石はシロオテの裁断について将軍へ意見を言上した。このたびの異人は万里のそとから来た外国人であるし、また、この者と同時に唐へ赴いたものもある由なれば、唐でも裁断をすることであろうし、わが国の裁断をも慎重にしなければならぬ、と言って三つの策を・・・ 太宰治 「地球図」
・・・ まず招待を受けた時には、すぐさま招待の御礼を言上しなければならぬ。これは、会主のお宅へ参上してお礼を申し上げるのが本式なのであるが、手紙でも差しつかえ無い。ただ、その御礼の手紙には、必ず当日は出席する、と、その必ずという文字を忘れては・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・初年木戸は陛下の御前、三条、岩倉以下卿相列座の中で、面を正して陛下に向い、今後の日本は従来の日本と同じからず、すでに外国には君王を廃して共和政治を布きたる国も候、よくよく御注意遊ばさるべくと凜然として言上し、陛下も悚然として御容をあらため、・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・和尚は殿様に逢って話をするたびに、阿部権兵衛が助命のことを折りがあったら言上しようと思ったが、どうしても折りがない。それはそのはずである。光尚はこう思ったのである。天祐和尚の逗留中に権兵衛のことを沙汰したらきっと助命を請われるに違いない。大・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ さて今年御用相片づき候えば、御当代に宿望言上いたし候に、已みがたき某が志を御聞届け遊ばされ候勤めているうちに、寛延三年に旨に忤って知行宅地を没収せられた。その子宇平太は始め越中守重賢の給仕を勤め、後に中務大輔治年の近習になって、擬作高・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫