・・・ 殊に自分は児童の教員、又た倫理を受持っているので常に忠孝仁義を説かねばならず、善悪邪正を説かねばならず、言行一致が大切じゃと真面目な顔で説かねばならず、その度毎に怪しく心が騒ぐ。生徒の質問の中で、折り折り胸を刺れるようなのがある。中に・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ ほんとうは、マルクス、エンゲルス両先生を、と言いたいところでもあろうが、いやいや、レニン先生を、と言いたいところでもあろうが、この作者、元来、言行一致ということに奇妙なほどこだわっている男で、いやいや、そう言ってもいけない、この作者、・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・私は今年のお正月、或る文芸雑誌に「黄村先生言行録」と題して先生が山椒魚に熱中して大損をした時の事を報告し、世の賢者たちに、なんだ、ばかばかしいと顰蹙せられて、私自身も何だか大損をしたような気さえしたのであるが、このたびの先生の花吹雪格闘事件・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・酔って不埒の言行に及ぶことは、断じて無い。呑んで、だまってそのまま、直ぐにまた寝るのである。ぐるぐる酔いがまわって来ても、私は、蒲団の中で、じっとしている。そのうちに眠くなるのである。一先輩は、私のからだを憂慮して、酒をあまり用いぬように忠・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・他人の言行でもそれを通して直接に腹の中を見透していた。そういう敏感さは子供の時分からすでにあったのが、病気のためにいっそう著しく病的に敏感になっていたように思う。それだから、他人はもちろん肉親の人々やまた自分自身のでも、胸の奥底にある少しの・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・彼らは口に伊太利亜復興期の美術を論じ、仏国近世の抒情詩を云々して、芸術即ち生活、生活即ち美とまでいい做しながらその言行の一致せざる事むしろ憐むべきものがある。看よ。彼らは己れの容貌と体格とに調和すべき日常の衣服の品質縞柄さえ、満足には撰択し・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・女子は男子よりも親の教、忽にす可らず、気随ならしむ可らずとは、父母たる者は特に心を用いて女子の言行を取締め、之を温良恭謙に導くの意味ならん。温良恭謙、固より人間の美徳なれども、女子に限りて其教訓を忽にせずと言えば、女子に限りて其趣意を厚く教・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・いわゆる教育なるものは則ち能力の培養にして、人始めて生まれ落ちしより成人に及ぶまで、父母の言行によって養われ、あるいは学校の教授によって導かれ、あるいは世の有様に誘われ、世俗の空気に暴されて、それ相応に萌芽を出し生長を遂ぐるものなれば、その・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・ この学校は中学の内にてもっとも新なるものなれば、今日の有様にて生徒の学芸いまだ上達せしにはあらざれども、その温和柔順の天稟をもって朝夕英国の教師に親炙し、その学芸を伝習し、その言行を聞見し、愚痴固陋の旧習を脱して独立自主の気風に浸潤す・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ゆえに我が義塾においては、生徒の卒業に至るまでは、ただ学識を育して判断の明を研くの一方に力をつくし、業成り塾を去るの後は、行くところに任して、かつてその言行に干渉するなしといえども、つねにその軽率ならざるを祈り、論ずるときは大いに論じ、黙す・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
出典:青空文庫