・・・ この初期の二つの評論にはっきりあらわれているように階級の歴史的経験を、自身の実感としないではいられなかった著者が「評価の科学性」からのち、益々解放運動とその文学運動の中心課題にてい身してゆくにつれ、論策も主としてプロレタリア文化・文学・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・対象の含んでいる種々の複雑な価値についてよく考え理解した上で、そこに諷刺のおさえがたい横溢を表現してゆくという製作の態度よりは、寧ろ小熊秀雄の才分の面白さ、という周囲の評価の自覚において諷刺の対象への芸術家としての歴史的な責任という点は些か・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・が、芸術化の過程が一条件としてもっている諸現象の評価、そのより特徴的な方向の取捨選択の必要を、「現実を歪曲する」権利という表現で強調していることは、理解の混乱をひきおこすと思う。更に、「ルポルタージュなるものは『物が人をうごかす』という唯物・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ ドイツでは、大層盛大なワグナア祭典が行われていたり、ゲーテやシラーについて政府としての評価が語られたりしているようだ。 文化に対する理解がそこにあるとされているが、そういう国では現在青年群に与える読みものとしてそういう古典を整頓し・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・読んで独り自ら評価して居る。ただこの評価は思想を同じゅうして居ないものの評価で、天晴批評と称して打出して言挙すべきものでないばかりだ。しかし筆の走りついでだから、もう一度主筆に追願をして、少しくこの門外漢の評価の一端を暴露しようか。明治の聖・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・ この詞は私の評価に少からず影響した。F君のドイツ語の造詣は、初め狂人かとまで思った疑を打ち消して、大いに君を重くしたのに、この詞は又頗る君を軽くした。固より人間は貧乏だからと云って、その材能の評価を減ずることはない。しかしF君が現に一・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・室町時代の文化を何となく貶しめるのは、江戸幕府の政策に起因した一種の偏見であって、公平な評価ではない。我々はよほどこの点を見なおさなくてはなるまいと思う。 室町時代の中心は、応永永享のころであるが、それについて、連歌師心敬は、『ひとり言・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
芸術の検閲 ロダンの「接吻」が公開を禁止されたとき、大分いろいろな議論が起こった。がその議論の多くは、検閲官を芸術の評価者ででもあるように考えている点で、根本に見当違いがあったと思う。 検閲官は芸術の解らない人であって・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・彼らはただ肉欲の対象として、牛肉のいい悪いを評価すると同じ心持ちで、評価する。この種の享楽の能力は、嗅覚と味覚の鈍麻した人が美味を食う時と同じく、零に近いほどに貧弱である。 放蕩者は一般に享楽人と認められる。しかし放蕩者のうちに右のごと・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・ しかし私は青春と名のつく時期を低く評価してはおりません。恐らくそれは、人生の最も大きい危機の一つであるだけに、また人生の最も貴い時期の一つでしょう。その貴さは溌剌たる感受性の新鮮さの内にあります。その包容力の漠然たる広さの内にあります・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫