・・・いわんや二三日前まで『文学評論』の訂正をしていて、頭が痺れたように疲れているから、早速に分別も浮びません。それに似寄った事をせんだってごく簡略に『秀才文壇』の人に話してしまった。あいにくこの方面も種切れです。が、まあせっかくだから――いつお・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・今日のには魯国新聞の日本に対する評論がある。もし戦争をせねばならん時には日本へ攻め寄せるは得策でないから朝鮮で雌雄を決するがよかろうという主意である。朝鮮こそ善い迷惑だと思った。その次に「トルストイ」の事が出ている。「トルストイ」は先日魯西・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・時これを慰めて後に大に戒しむるは止むを得ざる処置なれども、其立腹の理非をも問わず唯恐れて順えとは、婦人は唯是れ男子の奴隷たるに過ぎず、感服す可らざるのみか、末段に女は夫を以て天とす云々に至りては、殆ど評論の言葉もある可らず。妻が夫を天とすれ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・これを上下するに非ず。改進家流にも賤しむべき者あらん、守旧家流にも貴ぶべき人物あらん。これを評論するは本編の旨に非ず。ただ、国勢変革の前後をもって、かりに上下の名を下したるのみ。 かくの如く、天下の人心を二流に分ち、今の政府はそのいずれ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・そこで日本と西洋との比較を止めて、日本画中の比較評論、西洋画中の比較評論というように別々に話してもろうた。そうすると一日一日と何やら分って行くような気がして、十ヶ月ほどの後には少したしかになったかと思うた。その時虚心平気に考えて見ると、始め・・・ 正岡子規 「画」
・・・その後は特に俳句のために気焔を吐いて病牀でしばしばその俳句を評論する機会も多くなったが、さてその句はどうかというと、或鋳型の中に一定したという事はないために善いと思う事もあり悪いと思う事もあり、老成だと思う事もあり初心だと思う事もあり、しっ・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
宮本顕治には、これまで四冊の文芸評論集がある。『レーニン主義文学闘争への道』『文芸評論』『敗北の文学』『人民の文学』。治安維持法と戦争との長い年月の間はじめの二冊の文芸評論集は発禁になっていた。著者が十二年間の獄中生活から・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・という評論を書いている。氏が、尾崎、榊山氏のルポルタージュに自己感傷の過度を批難しながら、林房雄氏のレトリックに触れないことは読者にとっては不思議のようである。「太陽のない街」を実例として、ルポルタージュと記録小説との、芸術化の時間的過程の・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・頃日僕の書く物の総ては、神聖なる評論壇が、「上手な落語のようだ」と云う紋切形の一言で褒めてくれることになっているが、若し今度も同じマンション・オノレエルを頂戴したら、それをそっくりお金にお祝儀に遣れば好いことになる。 * ・・・ 森鴎外 「心中」
・・・もともと先生の芸術について適切な評論をなし得ようとは思っていなかったから、これくらいで筆を擱きたい。 先生の芸術についてはなお論ずべき事が多い。私は先生が「何を描こうとしたか」について粗雑な手をちょっと触れたのみで、「いかに描いたか」の・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫