・・・「うむ。左様か。しからば。いざ。いざ、持ち参れい」「へいへい。ウントコショ、ウントコショ、ウウントコショ。ウウウントコショ」「豪儀じゃ、豪儀じゃ、そちは左程になけれども、そちの身に添う慾心が実に大力じゃ。大力じゃのう。ほめ遣わす・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・主人は落ち着きはらってきせるをたんたんとてのひらへたたくのだ、あの豪気な山の中の主の小十郎はこう言われるたびにもうまるで心配そうに顔をしかめた。何せ小十郎のとこでは山には栗があったしうしろのまるで少しの畑からは稗がとれるのではあったが米など・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・ ところがこの豪儀な小十郎がまちへ熊の皮と胆を売りに行くときのみじめさといったら全く気の毒だった。 町の中ほどに大きな荒物屋があって笊だの砂糖だの砥石だの金天狗やカメレオン印の煙草だのそれから硝子の蠅とりまでならべていたのだ。小・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・文学の分野でも、情報局の形をとった軍部の兇悪な襲撃を、たった一人で、我ここに在りという風に、受けとめる豪気がひろ子にはなかった。みんなのいるところに出来るだけ自分も近くいたいという人恋しさがあった。けれども、重吉が、笑止千万という表情でひろ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・で朝から夜までこき使われる者、理由もなく殴られ得る下積の存在として、天質の豪気さ、敏感さ、熟考的な傾向と共に、少年ゴーリキイの生活及び人間に対する観察力は非常に発達している。殆ど辛辣でさえある。現実は強く彼を鍛え、書物に対する判断、芸術にお・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・いかにも昨夜忍藻に教訓していたところなどはあっぱれ豪気なように見えたが、これとてその身は木でもなければ石でもない。今朝忍藻がいなくなッた心配の矢先へこの凶音が伝わッたのにはさすが心を乱されてしまッた。今はその口から愚痴ばかりが出立する。・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・やがて二頭曳の馬車の轟が聞えると思うと、その内に手綱を扣えさせて、緩々お乗込になっている殿様と奥様、物慣ない僕たちの眼にはよほど豪気に見えたんです。その殿様というのはエラソウで、なかなか傲然と構えたお方で、お目通りが出来るどころではなく、御・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫