・・・ 女性としては、貞潔な、己を高く持した朗かさを持たなければなりません。 人格を見抜く力もなく、頭もなく、ちやほやされるままに気位なくあちこちと浮れ廻る娘は、只一人の真友も持ち得ないと同時に、女性に対して無責任、或は破廉恥な挙動をした・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・世界に資本主義の生産と経済が発達するにつれて個人の権利は主張されて近代資本主義社会の機構の範囲で民主的な国々では、社会における男女の等しい権利とともに、その恋愛や結婚、離婚、互の愛への責任としての貞潔に対する同じ責任と義務とを見るようになっ・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・オセロが、却ってそれで妻の貞潔を疑いはしないだろうか、と―― 舞台の上に見れば美しくあり悲劇でもあるこの女奴隷の恋めいたオセロへの畏怖から、イヤゴーの心理的トリックは着々と成功してゆく。そして遂に、かがやくばかりに美しかった白と黒との調・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
・・・教会と父権とが彼女たちに与えた現世の主である夫に対して、彼女たちは厳しくしつけられていた通りに貞潔の誓を立てながらも、もう唯の雌ではなく人間の女性となってペトラルカの詩も歌うようになっている。彼女たちは自分たちの生涯にとって不幸にして幸福な・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・クルベルが、安芝居のような身ぶり沢山で、而も婿の生計を支えてやらなくてはならぬ愚痴を並べ、借金の話、娘の持参金についての利子勘定のまくし立てるような計算と全く渾然結合して、道楽な良人のために悲運にある貞潔なユロ男爵夫人に厚顔な求愛をする。・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・菊池寛氏は、日本の男子がもっと一般に婦人尊重の習慣をもたなければならないこと、妻に貞操を求めるならばそれと同様に自身も妻に対する貞潔を保つべきこと、一旦結婚したら決して離婚すべからざること、それらを、こまかく具体的に、例えば月給は全部妻にわ・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・この文集の完成にあたって、私はこのことのかげに在って表には語られていない父の亡き母に対する情愛の貞潔なる濃やかさに、娘として深き感動を抑え難いのである。 よみ難かった母の原稿の浄書から印刷に関する煩瑣な事務万端について援助を惜しまれなか・・・ 宮本百合子 「葭の影にそえて」
・・・では同時に家庭教育というものが通俗の偽善的な道義観や宗教観にあやまられていて、女の子に性の知識を与える力、そして真の貞潔に成長させてやる力さえも持っていない事実を描いている。男の子にとっては、愛や温情の微塵もない中学校、女の子にとっては愛は・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・恋愛において、結婚生活において、形式から縛られた貞潔ではなしに、自発的な自身の愛情に対する責任としての貞潔を、自身にも婦人にも求めた。人間として完成する伴侶としての男と女との結合ということがこの時代には眼目とされたのであった。 確かに白・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・一人の武家の婦人が生命を賭さなければ、自分の貞潔を守れなかった当時の男の暴力を物語っている。 徳川の中葉から日本では町人階級が勃興して、身分制度においては一番低いものとされている商人が巨大な富を蓄積しはじめた。大坂がその中心地となった。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫