・・・』と、嬉しいともつかず、恐しいともつかず、ただぶるぶる胴震いをしながら、川魚の荷をそこへ置くなり、ぬき足にそっと忍び寄ると、采女柳につかまって、透かすように、池を窺いました。するとそのほの明い水の底に、黒金の鎖を巻いたような何とも知れない怪・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・ と独りでいったが、檐の下なる戸外を透かすと、薄黒いのが立っている。「何だねえ、人をだましてさ、まだ、そこに居るのかい、此奴、」 と小児に打たせたそうに、つかつかと寄ったが、ぎょっとして退った。 檐下の黒いものは、身の丈三之・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ 早や廊下にも烟が入って、暗い中から火の空を透かすと、学校の蒼い門が、真紫に物凄い。 この日の大火は、物見の松と差向う、市の高台の野にあった、本願寺末寺の巨刹の本堂床下から炎を上げた怪し火で、ただ三時が間に市の約全部を焼払った。・・・ 泉鏡花 「朱日記」
出典:青空文庫