・・・アンダスンの詩人らしい気象、アメリカの効用主義的社会通念に対する反抗が主題となっていて、文章もリズムを含んで感覚的で、一見主観的な独語のなかに客観的な批判をこめて表現する作風など、ドライサアとは全く異っていて、近代の心理的手法である。 ・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・反対のことが、外国の通念の中に植えこまれている。ここにも見落すことの出来ない現実のひとこまがある。 日本の人民は、半封建的な当時の社会輿論のなかで、政府が宣伝する開戦理由をそのままのみこんでいたばかりだった。政府の大本営発表を信じたばか・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・そういう要求を明言することさえ野暮であるというのが一般の通念である。山本有三氏の芸術を愛する者の心情は或は菊池寛氏の腰を据えた常識を愛する者の気分より現代の日本に貢献するところが多いかもしれないにかかわらず、山本氏は「一部の異論」で芸術院会・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・ 文学が、神或は馬琴流の善玉悪玉の通念に対して、一般人間性を主張した時代は、日本でも逍遙の「小説神髄」以来のことである。私たちのきょうの生活感情はそこから相当に遠く歩み出して来ている。「主従は三世」と云って、夫婦は二世、親子は一世と当時・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・また、作品の到るところに散在する敗残の美の描写も、一方にきわめて常識的な通念が人生における敗残の姿としている。それなりの形、動き、色調を、荷風もそのまま敗残の内容として自身の芸術の上に認めている。荷風にあっては、それに侮蔑の代りに歌を添える・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・若いころの恋愛なら、とまるで結婚はしたいことをしたあげくにすることのような通念にも我知らず屈して、唯そのひとの純粋さえ失われなければ、と出されている条件が人間生活の現実にはほとんど全く成り立たないものだということを知っていないほど、著者は人・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・そこで無視され、卑俗な大人の通念で誤解されたジャックの能動的な精神の発芽が、やがて封じこめられた「少年園」第二巻で経験する苦しみと危機との描写は、現代においても若い精神が教育とか陶冶とかいう名の下に蒙らなければならない戦慄的な桎梏と虚脱とを・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・女房は便利な家庭常備品という位にしか考えていないという一般の通念が反映しているではありませんか。 現代社会の現実はそのように人間の愛情をも低下させ貧弱なものにしているから、私達は一つの例外な行為として松本氏の栄子さんに対する愛情の表現に・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
出典:青空文庫