・・・暫く行くと道標の杙が立って居て、その側に居酒屋がある。その前に百姓が大勢居る。百姓はこの辺りをうろつく馬鹿者にイリュウシャというものがいるのをつかまえて、からかって居る。「一銭おくれ」と馬鹿は大儀そうな声でいった。「ふうむ薪でも割ってく・・・ 著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外 「犬」
・・・目的地への道標として、私が唯一のたよりにしていた汽車の軌道は、もはや何所にも見えなくなった。私は道をなくしたのだ。「迷い子!」 瞑想から醒めた時に、私の心に浮んだのは、この心細い言葉であった。私は急に不安になり、道を探そうとしてあわ・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・及び「過渡期の道標」で示したニュアンスにとみ曲折におどろかない豊潤な資質は、その後の諸論集のなかでどのように展開されただろうかという問題である。 片上伸研究が「過渡期の道標」と題されたことは、示唆的である。著者は、芥川龍之介の敗北の究明・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・「伸子」の続篇は、波瀾の多い四分の一世紀をへて、今「二つの庭」「道標」、なおそのあとにつく作品として執筆されつつある。「伸子」の中のむずかしい漢字は、今日の読者のためにかなに直した。 一九四八年九月〔一九四九年二月〕・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』)」
・・・「伸子」はやがて「二つの庭」からも出る。「道標」の根気づよい時期は、伸子が、新しい社会の方法とふるい社会の方法との間に、おどろくばかりのちがいを発見した時であり、伸子の欲望や感情も手きびしい嵐にふきさらされる。 はじめ、ただ一本の線の上・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・「伸子」を永年にわたって変化させ、前進させた。「二つの庭」「道標」及びこれからかきつづけられてゆくいくつかの続篇をとおして、「伸子」のうちに稚くひびいている主題は追求され展開されてゆくであろう。 伸子一人の問題としてではなく、この四分の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・「風知草」「播州平野」「二つの庭」「道標」それにつづいて執筆されつつある一九四五年以後の作品は、その作者が、自身の必然に立って民主的文学の課題にこたえようと試みているものである。「風知草」は「播州平野」とともに一九四七年度毎日文化賞をう・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・につづくものとして「道標」一部、二部、いまは第三部のおわり三分の一ばかりのところにいる。予定では、あと三巻ばかりの仕事がある。「伸子」と「二つの庭」との間には、二〇年余のへだたりがあり、その時間の距離は、作者の生活をその環境とともに内外・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
書きつづけている「道標」を今年の半ばまでに書き上げ、更にその先にすすみたいと思います。健康を守って、ゆとりをもって、たっぷり仕事をためたいと思います。〔一九四八年一月〕・・・ 宮本百合子 「今年の計画」
・・・の題材は、今執筆中の「道標」第三部の終りの部分で再びとりあげられる。そこでは十年前にはっきり描き出す自由をうばわれていたソヴェトの社会主義社会の生活の中で女主人公が経験した民族の文学にたいする愛の実感や登場人物などの関係が語られるであろう。・・・ 宮本百合子 「作者のことば(『現代日本文学選集』第八巻)」
出典:青空文庫