・・・が、ここで睡ってしまっては、折角の計略にかけることも、出来なくなってしまう道理です。そうしてこれが出来なければ、勿論二度とお父さんの所へも、帰れなくなるのに違いありません。「日本の神々様、どうか私が睡らないように、御守りなすって下さいま・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・てな』と天理教のお歌様にもある通り、定まった事は定まったようにせんとならんじゃが、多い中じゃに無理もないようなものの、亜麻などを親方、ぎょうさんつけたものもあって、まこと済まん次第じゃが、無理が通れば道理もひっこみよるで、なりませんじゃもし・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 乏しい様子が、燐寸ばかりも、等閑になし得ない道理は解めるが、焚残りの軸を何にしよう…… 蓋し、この年配ごろの人数には漏れない、判官贔屓が、その古跡を、取散らすまい、犯すまいとしたのであった――「この松の事だろうか……」 ―・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・ 母の心配も道理のあることだが、僕等もそんないやらしいことを云われようとは少しも思って居なかったから、僕の不平もいくらかの理はある。母は俄にやさしくなって、「お前達に何の訣もないことはお母さんも知ってるがネ、人の口がうるさいから、た・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・それから、急に不評判になって、あの婆さんと娘とがいる間は、井筒屋へは行ってやらないと言う人々が多くなったのだそうだ。道理であまり景気のいい料理店ではなかった。 僕が英語が出来るというので、僕の家の人を介して、井筒屋の主人がその子供に英語・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・わたくしを生きながら元の道へお帰らせなさる事のお出来にならないのも、同じ道理でございます。幾らあなたでも人間のお詞で、そんな事を出来そうとは思召しますまい。」「わたくしは、あたたの教で禁じてある程、自分の意志のままに進んで参って、跡を振・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・自分の子供が可愛ければ、他の子供にもやさしくなるのは、この道理であります。 このことは、古今、東西、国を異にし、また種族を異にしても相違のある筈はないでありましょう。こゝに思い至るたびに、私は、戦争ということが、頭に浮び、心が暗くなるの・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・をして横を見ると、呀と吃驚した、自分の直ぐ枕許に、痩躯な膝を台洋燈の傍に出して、黙って座ってる女が居る、鼠地の縞物のお召縮緬の着物の色合摸様まで歴々と見えるのだ、がしかし今時分、こんなところへ女の来る道理がないから、不思議に思ってよく見よう・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・ 繁昌らぬのも道理だ。家伝薬だというわけではなし、名前が通っているというわけでもなし、正直なところ効くか効かぬかわからぬような素人手製の丸薬を、裏長屋同然の場所で売っていて誰が買いに来るものか。 無論、お前もそのことは百も承知し・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・叔父が笑うのも道理で、鹿狩りどころか雀一ツ自分で打つことはできない、しかし鹿狩りのおもしろい事は幾度も聞いているから、僕はお供をすることにした。 十二月の三日の夜、同行のものは中根の家に集まることになっていたゆえ僕も叔父の家に出かけた、・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
出典:青空文庫