・・・ 芥川龍之介という作家は、都会人的な複雑な自身の環境から、その生い立ちとともに与えられた資質や一種の美的姿勢や敏感さから、それらのテーマが主観のうちに重大であり、客観的に注目をひくものであればあるだけ、いきなりの表現で描き出すことは避け・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・一人として、過度な緊張からくる一種の疲労を感じないもののない程、我々人間は、人間の小細工でこしらえすぎた過去の文化に対して連帯責任を持っているし、他面から考えれば、そんなことを、都会人らしい感傷と女々しさでくどくどいっていられない、大切の時・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・ 或る婦人があって、そのひとは医学の或る専門家で、その方面の知識は常に新しくとりいれているし、職業人として立派な技量もそなえているのだけれども、都会人らしい、いろいろの迷信めいたものも一方にそのままもっていて、それは決してやめない。科学・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・そのユーモアの網野さんが生粋の都会人であることや、細かい神経を持っていることや、一抹の淋しさを漂わした感情の所有者であることなどが直に窺われる。都会人らしい――それも町家の――心持に教養の加った気分で生活している間に、ひょい、ひょいと人生の・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・然し、寛大な読者諸君は、何故都会人がホテルの食堂へわざわざ出かけて、鑵詰のアスパラガスを食べて来たい心持になるか、ただ食べたいばかりではない。同時に食欲以上旺盛な観察欲というものに支配されているのだということを御承知である。 計らずその・・・ 宮本百合子 「三鞭酒」
・・・私はこの作者が、都会人らしく自身の経験を単なる偶然のこととして眺めすてず、執拗に、具体的に心理、情景の細部をも追究して後篇を完成することを深く希望する。この作者が歴史の進歩的な面への共感によって生きようとしている限り、よしんば偶然によって貯・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 東京の下町の強い伝統を持った家族関係の中で経済的な不如意を都会人らしい体裁で取りつくろいながら生きている人々の間で育ち、大学時代から現実生活の問題を常に念頭に置いていなければならなかった青年時代の芥川龍之介。自身の上に濃く投げかけられ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・哀訴や、敏感や、細胞の憂愁は全く都会人、文明人の特質で古代の知らない病であると云うかもしれない。然し、等しく、此等は人類の心の過程ではありませんか我々は、彼の素朴と敏感とを並び祖先に持つ我々は其等を皆、我裡に感じる。・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・と、都会人らしく感歎した。「そりゃ湯ケ原のようには行かなくてよ」「え? うむ、そりゃ分ってるが……硫黄の出るところは流石に違うな」「家らしいのは宿屋だけね」 この方面ばかりでなく、宿屋が並んだ表通りを一寸裏へ入ると、どこ・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・「でも×さんという方は洗練された、都会人らしい神経の方ですね、いろいろな場合、私の心持を本当によく劬って下さるのが分ります」「書くものも見ていただきなさるの?」「いいえ、書いたものは一度もお見せしません」 芸術の上で、彼の弟・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
出典:青空文庫