・・・氷に滑べらないように、靴の裏にラシャをはりつけた防寒靴をはき、毛皮の帽子と外套をつけて、彼等は野外へ出て行った。嘴の白い烏が雪の上に集って、何か頻りにつゝいていたりした。 雪が消えると、どこまで行っても変化のない枯野が肌を現わして来た。・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・舞台を踏み抜いてしまう。野外劇場はどうか。 俳優で言えば、彦三郎、などと、訪客を大いに笑わせて、さてまた、小声で呟くことには、「悪魔はひとりすすり泣く。」この男、なかなか食えない。 作家は、ロマンスを書くべきである。・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・そのあとで、解放された男女職工が野外のメイポールの下で踊るのがやはり円運動の余響として見られる。最後に愉快なルンペン、ルイとエミールが向かって行く手の道路の並行直線のパースペクチヴが未知なる未来への橋となって銀幕の奥へ消えて行くのである。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかし実験室で、ある指定された条件のもとにおいて行なわれた実験が必ずしも直接に野外の現象に適用されるかどうかは疑わしい。結局は実際の野外における現象の正確な観察を待つ必要がある。 ギバの現象が現時においてもどこかの地方で存在を認められて・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・しかし実験室内に捕われたとんぼがはたして野外の自由なとんぼと全く同じ性能をもつと仮定してよいかどうかという疑問は残る。 いちばん安全な方法はやはり野外でたくさんの観測を繰り返し、おのおのの場合の風向風速、太陽の高度方位、日照の強度、その・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・いちばんかいてみたいのは野外の風景であるが今の病体ではそれは断念するほかはなかった。それでとうとう自画像でも始めねばならないようになって来た。いったい自分はどういうものか、従来肖像画というものにはあまり興味を感じないし、ことに人の自画像など・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・――あなた方の方では人間を御かきになるときはモデルを御使いになります、草や木を御かきになるときは野外もしくは室内で写生をなさいます。これはまことに結構な事で、我々文学者が四畳半のなかで、夢のような不都合な人物、景色、事件を想像して好加減な事・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・雑誌のモードは、山に海にと、闊達自由な服装の色どりをしめし、野外の風にふかれる肌の手入れを指導しているけれども、サンマー・タイムの四時から五時、ジープのかけすぎる交叉点を、信号につれて雑色の河のように家路に向って流れる無数の老若男女勤め人た・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 侘しい古い家も、七月になると一時に雨戸という雨戸を野外に向って打ち開き甦った。東京から、その家の持ち主の妻や子供達や、従兄従妹などという活発な眷属がなだれ込んで来て部屋部屋を満した。永い眠りから醒まされて、夏の朝夕一しお黒い柱の艶を増・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・井上正夫、桝本清氏等と謀り野外劇を創む。 一九一四年。第三次『新思潮』を起す。「女親」を同誌に発表。二高で高等学校の検定試験を受け及第。大学の本科生となる。学資欠乏し、郷里の大塚氏より十ヵ月間恩借。 一九一五年。大学卒業。井上正夫を・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫