・・・或る時尋ねると、極細い真書きで精々と写し物をしているので、何を写しているかと訊くと、その頃地学雑誌に連掲中の「鉱物字彙」であった。ソンナものを写すのは馬鹿馬鹿しい、近日丸善から出版されるというと、そうか、イイ事を聞いた、無駄骨折をせずとも済・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ これらの小片は動植物界のものばかりでなく鉱物界からのものもあった。斜めに日光にすかして見ると、雲母の小片が銀色の鱗のようにきらきら光っていた。 だんだん見て行くうちにこの沢山な物のかけらの歴史がかなりに面白いもののように思われて来・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・ あえて蠅に限らず動植鉱物に限らず、人間の社会に存するあらゆる思想風俗習慣についても、やはり同じようなことがいわれはしないか。 たとえば野獣も盗賊もない国で、安心して野天や明け放しの家で寝ると、風邪を引いて腹をこわすかもしれない。○・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・ あえてはえに限らず動植鉱物に限らず、人間の社会に存するあらゆる思想風俗習慣についてもやはり同じようなことが言われはしないか。 たとえば野獣も盗賊もない国で安心して野天や明け放しの家で寝ると風邪をひいて腹をこわすかもしれない。○を押・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・同じ教科書の中でも、動物、植物、鉱物、地理、歴史、化学のごとき、主として暗記すべきものは、こうしたほうが得なように思う。ちょっと例をあげてみると、教師からある種の質問を受けた時、悉皆頭脳に記憶してある事がらでも、どうもその質問に応じて、容易・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・して見るとなんでもこの辺にさっきの花崗岩のかけらがあるね、そいつの中の鉱物がかやかや物を云ってるんだね。」なるほど大学士の頭の下に支那の六銭銀貨のくらいのみかげのかけらが落ちていた。学士はいよいよにこにこする。「そうかい・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・人類の食料と云えば蓋し動物植物鉱物の三種を出でない。そのうち鉱物では水と食塩とだけである。残りは植物と動物とが約半々を占める。ところが茲にごく偏狭な陰気な考の人間の一群があって、動物は可哀そうだからたべてはならんといい、世界中にこれを強いよ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・石炭、石油の物語は鉱物とともに現代の生産の根を握っている天然の産物だが、研究社学生文庫の「我等の住む大地」は科学的なところから地球の鉱物を語っている。文学はこれらの天然の産物が人間社会の関係の中で人に働かされまた人を動かしている姿において描・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・しかもそれについて語りかたは、歴史の現実とともに急激に推進されて、わたしたちは、創作方法についてメリー・キューリー夫人が放射能を求めて、黒くて臭い鉱物を煮つめていた時代のように語ってばかりいることは許されない。こんにちジョリオ・キューリーが・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・非常な勉強ずきで哲学から鉱物学、結晶学まで専門にやったマリエッタ・シャギニャーンは、当時紡績織物専門学校で紡績についての研究をやっている。―― 一九一四年に、第一次世界大戦がはじまって、一九一七年三月には、ケレンスキーの仮政府ができ、つ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫