・・・其葦の枯葉が池の中心に向つて次第に疎になつて、只枯蓮の襤褸のやうな葉、海綿のやうな房が碁布せられ、葉や房の茎は、種々の高さに折れて、それが鋭角に聳えて、景物に荒涼な趣を添へてゐる。此の bitume 色の茎の間を縫つて、黒ずんだ上に鈍い反射・・・ 永井荷風 「上野」
・・・ *新芽をふいた世界は鋭角になり 緑になり平面に延る人間の心を 擾乱する。夜中の雨に じっとりと濡れ膨らんだ細葉を 擡げ 巻き立ち陽を吸う苔を見よ。音が聴えそうだ。又は勁く、叢れ、さっと若葉を・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・名を忘れたけれども二人の女優のどちらもカスリン・ヘップバーンをもっと鋭角的に直線的に削ったような顔だちであった。一見中性的で、或るかたさ、つめたさが漂っていながら、しかもどっかに激しい女の情慾を感じさせる種類の顔であった。女のようでない、だ・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫