・・・が、憎悪も利害の前には鋭鋒を収めるのに相違ない。且又軽蔑は多々益々恬然と虚偽を吐かせるものである。この故に我我の友人知己と最も親密に交る為めには、互に利害と軽蔑とを最も完全に具えなければならぬ。これは勿論何びとにも甚だ困難なる条件である。さ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・敵の鋭鋒を避ける笑いだ。つまり、ごまかしの笑いである。 そうして、私の寝ながらの空想は、次のような展開をはじめたのである。 彼はあの街頭の討論を終えて、ほっとして汗を拭き、それから急に不機嫌な顔になってあのひとの役所に引上げる。・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・行進 田島は敵の意外の鋭鋒にたじろぎながらも、「そうさ、全くなってやしないから、君にこうして頼むんだ。往生しているんだよ。」「何もそんな、めんどうな事をしなくても、いやになったら、ふっとそれっきりあわなけれあいいじ・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ この一章は、ヘンリー・ライクロフトが最も鋭鋒を現した部分と云えよう。 今日の私共がこれを読んで感じるのは、「豈英国のみならんや」と云うことである。又、ショウが英国で嫌われる。その理由を、国民が彼の云うことが本当なのは認めるが平然と・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
出典:青空文庫