・・・科学者は落ち着いて自然を見もしないで長たらしい数式を並べ、画家はろくに自然を見もしないでいたずらにきたならしい絵の具を塗り、思想家は周囲の人間すらよくも見ないでひとりぎめのイデオロギーを展開し、そうして大衆は自分の皮膚の色も見ないでこれに雷・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・科学者は落着いて自然を見もしないで長たらしい数式を並べ、画家はろくに自然を見もしないで徒に汚らしい絵具を塗り、思想家は周囲の人間すらよくも見ないで独りぎめのイデオロギーを展開し、そうして大衆は自分の皮膚の色も見ないでこれに雷同し、そうして横・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 先生の留学中に自分は病気になって一年休学し、郷里の海岸で遊んでいたので、退屈まかせに長たらしい手紙をかいてはロンドンの先生に送った。そうして先生からのたよりの来るのを楽しみにしていた。病気がよくなって再び上京し、まもなく妻をなくして本・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・かつてそれほどに、まだ自己を知らなかった得意の時分に、先生は長たらしい小説を書いて、その一節に三味線と西洋音楽の比較論なぞを試みた事を思返す。世の中には古社寺保存の名目の下に、古社寺の建築を修繕するのではなく、かえってこれを破壊もしくは俗化・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・これも、わたくしは入って見てもいいと思いながら講演が長たらしいのに閉口して、這入らずにしまった。エロス祭と女の首の見世物とは半歳近くつづいて、その年の秋にはなくなっていた。 ジャズ舞踊と演劇とを見せる劇場は公園の興行街には常盤座、ロック・・・ 永井荷風 「裸体談義」
出典:青空文庫