・・・ 由来革命の鍵はイツデモ門外漢の手に握られておる。政治上の革命がしばしば草沢の無名の英雄に成し遂げられるように、文芸上の革命もまた往々シロウトに烽火を挙げられる。京伝馬琴以後落寞として膏の燼きた燈火のように明滅していた当時の小説界も龍渓・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・だけ見ている門外漢には、やはり同じ顔しか見えないものではないかと思われる。従って私はもしも歌人が自分の顔を気にしてそれを色々に変えようとするような事があるとすれば、それは大して努力するだけの意義のある事ではないように思う。 それで私はす・・・ 寺田寅彦 「宇都野さんの歌」
・・・ ついでながら、自分のような門外漢がこの講座のこの特殊項目に筆を染めるという僣越をあえてするに至った因縁について一言しておきたいと思う。元来映画の芸術はまだ生まれてまもないものであってその可能性については、従来相当に多数な文献があるにも・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 思いつくままを書きました。門外漢の妄語として御聞き捨てを願います。 寺田寅彦 「御返事(石原純君へ)」
・・・これは材料その物の性質にもよりまた表面の仕上げの方法にもよるだろうが、少しの研究と苦心によって少なくも外国製に劣らぬくらいにはできそうなものであるのに、それができていないのはどういう理由によるものか、門外漢にはわかりかねる。しかし私の知れる・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・自分はこの方には全然門外漢であるが、自分の専門と多少の関係があるので少しばかり土佐の地名を考えてみた。勿論まだ何ら纏った結果を得た訳ではないが、少しばかり考えた断片的の結果を左に記して、専門家やまた土佐の歴史に明るい先輩諸氏の示教を仰ぎたい・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・このはなはだ僭越と考えらるべき門外漢の一私案が、もし専門学者にとってなんらかの参考ともならば、著者としての喜びはこれに過ぎるものはない。 思うにこの私案の第一歩の試みを最も有効に遂行するためには、おそらく言語学者と科学者との協力が必要で・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・幼稚な智識をもった者、没分暁漢あるいは門外漢になると知らぬ事を知らないですましているのが至当であり、また本人もそのつもりで平気でいるのでしょうが、どうも処世上の便宜からそう無頓着でいにくくなる場合があるのと、一つは物数奇にせよ問題の要点だけ・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・だから画の事に関して嘴を容れる権利は無論ないのですが、門外漢の云う事も時には御参考になるだろうし、こうして諸君に御目にかかる機会も滅多にありませず、かつ文芸全体に通じての議論ですから、大胆なところを述べてしまいます。――あなた方の方では人間・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・全くの門外漢なのだけれども、折々読んだ句集の中から与えられて来ている感銘が多く深いところをみれば、彼の芸術には今の瞬間に息づいている何ものかがあるにちがいない。ここにぬきがきした僅の句は、私たちに理解されるというばかりでなく真実の共感がある・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫