・・・ この航海のおもなる使命は純学術的よりはむしろより多く経済的なものであって、それも単にロシアの氷海を太平洋に連絡させるというのみでなく、莫大な富源の宝庫ヤクーツクの関門と見るべきレナ河口と、ドヴィナ湾との間に安全な定期航路を設定しようと・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・しかし、そういう一番肝心な基礎的なことがよく分からないで枝葉のデテールをごたごたに暗記して、それで高等学校の入学試験をパスし、大学の関門を潜り、そうして極めてスペシァルなアカデミックな教育を受けて天晴れ学士となり、そうしてしかも、実はその専・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・江戸川の水勢を軟らげ暴漲の虞なからしむる放水路の関門であることは、その傍まで行って見なくとも、その形がその事を知らせている。 水の流れは水田の唯中を殆ど省線の鉄路と方向を同じくして東へ東へと流れて行く。遠くに見えた放水路の関門は忽ち眼界・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・物我などと云う関門は最初からない事になりました。天地すなわち自己と云うえらい事になりました。いつの間にこう豹変したのか分らないが、全く矛盾してしまいました。 なぜこんな矛盾が起ったのだろうか。よく考えると何にもないのに、通俗では森羅万象・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・廻了というは正方形を一周することなれどもその間には第一基第二基第三基等の関門あり各関門には番人(第一基は第一基人これを守る第二第三皆あるをもって容易に通過すること能わざる也。走者ある事情のもとに通過の権利を失うを除外という。審判官除外と呼べ・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・家がまた新しく変ったからであるが、この第二の学校のすぐ横には疏水が流れていて、京都から登って来たり下ったりする舟が集ると、朱色の関門の扉が水を止めたり吐いたりした。このころ、この街にある聯隊の入口をめがけて旗や提灯の列が日夜激しくつめよせた・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・ 我々は北国の関門に立っているのである。なぜというに、ここを越せばスカンジナヴィアの南の果である。そこから偉大な半島がノルウェエゲンの瀲や岩のある所まで延びている。 あそこにイブセンの墓がある。あそこにアイスフォオゲルの家がある。ど・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・として第一義に活動せんとするものは、一度は人生問題の関門に到達せねばならぬ。二 眼を人生の百般に放つ。光明なる表面は暗黒なる罪悪を包む。闇の中には爆裂弾をくれてやりたい金持ちや馬糞を食わしてやりたい学者が住んでいる。万事はた・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫