・・・と探険隊長の演説の中でも紹介されているが、これは子熊の立場からは当然のことであろう。あばれる子熊の横顔へ防寒長靴をはいた人間の足がいくつも飛んで来る。これも人間の立場からは当然であろう。やがて魂の抜けた親熊の死骸が甲板につりおろされると、子・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ O氏の主催で工業クラブに開かれた茶の会で探険隊員に紹介されてはじめて自分のぼんやりした頭の頂上へソビエト国の科学的活動に関する第一印象の釘を打ち込まれたわけである。 隊長シュミット氏は一行中で最も偉大なる体躯の持ち主であって、こう・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・いま公判がひらかれている吉村隊長が、外蒙の日本人捕虜収容所のボスとして行った残虐と背徳行為が社会問題化したのは、「暁に祈る」という怪奇なテーマをもつ記録文学がいくとおりか発表され、輿論の注目をひいたためであった。現地の軍当局の信じられないほ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・吉村隊長でさえ、検事局はあれだけ全国的に事実をかためてから逮捕した。飯田、山本両氏について、検事局は「往来危険罪で処断」と最悪の場合は死刑までふくむ法文を引用して見解を示している。 ところが事件の十五日夜アリバイがはっきりしているために・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・板垣退助を隊長とする官軍に属する医者の息子である一人の青年に「維新の業は我ら草莽の臣の力によってなさるべきだ」といわせたり「暗厄利亜国に、把爾列孟多というものがあるのを御存知ですか。この戦争後に、それができるのでなければ、ちょっと死ぬ気にも・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・その背景とし、侵略者としての本質をかたるエピソードとして、土方という隊長の階級的タイプを一貫して描きつつ、主人公野田その他の性格と動きとを蒙古の原始的生活の前に描き出さるべきであった。 二百七枚の原稿の間には論文またはレポートの部分が三・・・ 宮本百合子 「予選通過作品選評」
・・・今は石田と同じ歩兵少佐で、大隊長をしている。少し太り過ぎている男で、性質から言えば老実家である。馬をひどく可哀がる。中野は話を続けた。「君に逢ったら、いつか言って置こうと思ったが、ここには大きな溝に石を並べて蓋をした処があるがなあ。」・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・そこを坂下からこちらへ十人ばかりの陸軍の兵隊が、重い鉄材を積んだ車を曳いて登って来ると、栖方の大尉の襟章を見て、隊長の下士が敬礼ッと号令した。ぴたッと停った一隊に答礼する栖方の挙手は、隙なくしっかり板についたものだった。軍隊内の栖方の姿を梶・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫