・・・現に今日の日本では、おびただしい良人と妻とが、離れ離れの平常でないあけくれを経験している。それらの良人、それらの妻は、どんな互のきずなによって、それぞれに多難な生活の事情のうちで互の誠実を処理して行っているであろう。ここにも直接産みふやして・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・ 私と彼の人 お互にどんな事があってもまるで知らんぷりをして離れ離れの生活をする事が出来ないと云う事は、私達二人が知って居るばかりでなく囲りの人も知っている。 一年にたった三度しか会わなかったり、一月中毎日毎日行・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・彼女の解って呉れる迄、自分は自分の生活を、すっかり独りで営もう、と云う自足の感情は、やがて、此、淋しく離れ離れになった有様で、新らしい元旦を迎えなければならないか、と云う、淋しい孤独感となって来た。 大晦日や元旦の朝を、自分は子供の時か・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・「どういう目に逢うても、兄弟離れ離れに相手にならずに、固まって行こうぞ」「うん」と権兵衛は言ったが、打ち解けた様子もない。権兵衛は弟どもを心にいたわってはいるが、やさしく物をいわれぬ男である。それに何事も一人で考えて、一人でしたがる。相・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・仲平はこの発明を胸に蔵めて、誰にも話さなかったが、その後は強いて兄と離れ離れに田畑へ往反しようとはしなかった。 仲平にさきだって、体の弱い兄の文治は死んだ。仲平が大阪へ修行に出て篠崎小竹の塾に通っていたときに死んだのである。仲平は二十一・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫