・・・ただわずかに人の真心――誠というものの一切に超越して霊力あるものということを思い得て、「一心の誠というものは、それほどまでに強いものでしょうかナア。」と真顔になって尋ねた。中村はニヤリと笑った。「誠はもとより尊い。しかし準備もま・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・不換紙幣は当時どれほど世の中の調節に与って霊力があったか知れぬ。その利を受けた者は勿論利休ではない、秀吉であった。秀吉は恐ろしい男で、神仙を駆使してわが用を為さしめたのである。さて祭りが済めば芻狗は不要だ。よい加減に不換紙幣が流通した時、不・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ような霊的交流をもって生活したが、やがて男はそのみこのような霊力の女をすてて、別の女と結婚し、死ぬ。 龍江は、だが、男の結婚したことは知らず、ある夜、ふろの中で突然はげしい香におそわれ、真裸でこのような強い香をかぐのは、たいへん恥しいこ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫