・・・ 牙の六つある大白象の背に騎して、兜率天よりして雲を下って、白衣の夫人の寝姿の夢まくらに立たせたまう一枚のと、一面やや大なる額に、かの藍毘尼園中、池に青色の蓮華の開く処。無憂樹の花、色香鮮麗にして、夫人が無憂の花にかざしたる右の手のその・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ 話に聴いた、青色のその燈火、その台、その荒筵、その四辺の物の気勢。 お雪は台の向へしどけなく、崩折れて仆れていたのでありまする。女は台の一方へ、この形なしの江戸ッ児を差置いて、一方へお雪を仆した真中へぬッくと立ち、袖短な着物の真白・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・また緑色のもあれば、紫色のも、青色のもありました。良吉は、自分はなんのおもちゃも、また珍しいものも持たないけれど、この空の星だけは自分のものにきめておこうと思いました。そして毎晩、あの星の光をみつめて寝ようと思いました。 良吉は、毎晩、・・・ 小川未明 「星の世界から」
・・・側は西洋銀らしく大したものではなかったが、文字盤が青色で白字を浮かしてあり、鹿鳴館時代をふと思わせるような古風な面白さがあった。「いい時計ですね。拝見」 と、手を伸ばすと、武田さんは、「おっとおっと……」 これ取られてなるも・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・色は海の青色で――御覧そのなかをいくつも魚が泳いでいる。もう一つは窓掛けだ。織物ではあるが秋草が茂っている叢になっている。またそこには見えないが、色づきかけた銀杏の木がその上に生えている気持。風が来ると草がさわぐ。そして、御覧。尺取虫が・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・往復の船は舷灯の青色と赤色との位置で、往来が互に判るようにして漕いで居る。あかりをつけずに無法にやって来るものもないではない。俗にそれを「シンネコ」というが、実にシンネコでもって大きな船がニョッと横合から顔をつん出して来るやつには弱る、危険・・・ 幸田露伴 「夜の隅田川」
・・・眼をつぶって口を小さくあけていた。青色のシャツのところどころが破れて、採集かばんはまだ肩にかかっていた。 それきりまたぐっと水底へ引きずりこまれたのである。 二 春の土用から秋の土用にかけて天気のいい日だと、馬禿・・・ 太宰治 「魚服記」
・・・美しい青色の似合う先生。胸の真紅のカーネーションも目立つ。「つくる」ということが、無かったら、もっともっとこの先生すきなのだけれど。あまりにポオズをつけすぎる。どこか、無理がある。あれじゃあ疲れることだろう。性格も、どこか難解なところがある・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・なんという布地か、私にはわかりませんけれど、濃い青色の厚い布地の袷に、黒地に白い縞が一本はいっている角帯をしめていました。書斎は、お茶室の感じがしました。床の間には、漢詩の軸。私には、一字も読めませんでした。竹の籠には、蔦が美しく活けられて・・・ 太宰治 「恥」
・・・というのは亡兄の遺作に亡兄みずから附したる名前であって、その青色の二尺くらいの高さの仏像は、いま私の部屋の隅に置いて在るが、亡兄、二十七歳、最後の作品である。二十八歳の夏に死んだのだから。 そういえば、私、いま、二十七歳。しかも亡兄のか・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫