・・・ その年は八月中旬、近江、越前の国境に凄じい山嘯の洪水があって、いつも敦賀――其処から汽車が通じていた――へ行く順路の、春日野峠を越えて、大良、大日枝、山岨を断崕の海に沿う新道は、崖くずれのために、全く道の塞った事は、もう金沢を立つ時か・・・ 泉鏡花 「栃の実」
・・・……四日町を抜けて、それから小四郎の江間、長塚を横ぎって、口野、すなわち海岸へ出るのが順路であった。…… うの花にはまだ早い、山田小田の紫雲英、残の菜の花、並木の随処に相触れては、狩野川が綟子を張って青く流れた。雲雀は石山に高く囀って、・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・書を読んで終に書を離れるのが知識階級の真理探究の順路である。 現代青年学生は盛んに、しかしながら賢明に書を読まねばならぬ。しかしながら最後には、人間教養の仕上げとしての人間完成のためには、一切の書物と思想とを否定せねばならぬものであるこ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・そこで省線に乗り換え、新宿駅へ着いたら、東京行の省線に乗り換え、水道橋というところで降りて、とたいへん遠い路のりを、不自由な日本語で一生懸命に説明して下さいましたが、どうやらそれは、本郷の春日町に行く順路なのでありました。お話を聞いて、その・・・ 太宰治 「千代女」
・・・ラジオはメーデー歌を放送し、インターナショナルを歌い、新聞は、行進の順路を発表した。メーデー準備は、全勤労者の統一メーデーとして進められているのであった。 五月一日の朝があけてみると、東京は小雨がおちて、風も相当にある。うちでは、一・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・徒歩で行かなければならない各区への順路を教える。何にしても、夜歩くのは危険極ると云うのに、列車は延着する一方で、東京を目前に見ながら日が暮てしまったので、皆の心配は、種々な形であらわれた。知る知らないに拘らず、同じ方面に行く者は、組みになっ・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫