・・・その光に透かして見れば、これは頭部銃創のために、突撃の最中発狂したらしい、堀尾一等卒その人だった。 二 間牒 明治三十八年三月五日の午前、当時全勝集に駐屯していた、A騎兵旅団の参謀は、薄暗い司令部の一室に、二人の支那・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・死んだやうになつてゐた数秒、しかし再び意識をとり戻した彼が、勇敢にも駈け出した途端に両手に煉瓦を持つて待ちぶせてゐた一人が、立てつづけに二個の煉瓦を投げつけ、ひるむところをまたもや背後から樫棒で頭部を強打したため、かの警官はつひにのめるやう・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・佐は乗員をボートに乗り移らしめ、杉野兵曹長の見当たらざるため自ら三たび船内を捜索したるも、船体漸次に沈没、海水甲板に達せるをもって、やむを得ずボートにおり、本船を離れ敵弾の下を退却せる際、一巨弾中佐の頭部をうち、中佐の体は一片の肉塊を艇内に・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・狆の甘ったれた精神にむかむか憎悪を覚えたのである。騒ぐな、騒ぐな、と息をつめたような声で言ってから、庭へ飛び降り小石を拾い、はっしとぶっつけた。狆の頭部に命中した。きゃんと一声するどく鳴いてから狆の白い小さいからだがくるくると独楽のように廻・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・そして頭部の線の集団全体を載せる台のような役目をしていると同時に、全体の支柱となるからだの鉛直線に無理なく流れ込んでいる。それが下方に行って再び開いて裾の線を作っている。 浮世絵の線が最も複雑に乱れている所、また線の曲折の最もはげしい所・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・これを科学的な目で見ると要するに馬の頭部の近辺に或る異常な光の現象が起こるというふうに解釈される。 次に注意すべきは、この怪異の起こる時の時間的分布である。すなわち「濃州では四月から七月までで、別して五六月が多いという。七月になりかかる・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ 小浅間への登りは思いのほか楽ではあったが、それでも中腹までひといきに登ったら呼吸が苦しくなり、妙に下腹が引きつって、おまけに前頭部が時々ずきずき痛むような気がしたので、しばらく道ばたに腰をおろして休息した。そうしてかくしのキャラメルを・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・gniev はギリシアの動詞 aganaktein の頭部に似ている。古事記の「いごのふ」にも似ている。gn をロシア流に hn にする一方で、「忿怒」から「心」を取り去って、呉音で読めば hnn である。 英語の gnarl は「うな・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・頭に冠った鳥冠の額に、前立のように着けた鳥の頭部のようなものも不思議な感じを高めた。私はこの面の顔の表情に、どこか西洋画で見るパンの神のそれに共通なものがあるような気がしてならなかった。 三番目は「蘇莫者」というのである。何と読むのか、・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 食堂やあるいは電車の中などで、隣席の人のもっているステッキの種類特にその頭部の装飾を見ると、それに現われたその持ち主の趣味がたいていネクタイとか腕時計とか他の持ち物に反映しているように思われる。しかし神の取り合わせた顔と腕にはそうした・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫